健康的な酒の飲み方 2.清酒1合,ビール1本分のアルコールの代謝に4時間かかる

 アルコールが代謝されるには酸素が必要である。大酒飲みではない普通の人では①,②の脱水素酵素系が主な代謝系であるが,この系で1モルのアルコールが酢酸にまで代謝される際には1モルの酸素が必要である。ビール大瓶1本飲めば約30グラムのアルコール,すなわち0.65モルを飲んだことになる。肝臓での酸素消費量は1時間に0.15モル程度であるので,ビール1本分のアルコールを酢酸に代謝するには肝臓で消費する酸素の約4時間分が必要である。実際に,ヒトを用いた実験で体重1kg当たり0.4 gのアルコールを投与したところ(体重60 kg で24 g, 0.6モル,標準的な成人で日本酒1合またはビール大瓶1本分に相当),その血中濃度は30~60分後にピークとなり,その後徐々に減少し,4時間で消失した(図1)。この結果は肝臓の酸素消費量を考慮すると4時間は肝臓で利用できる酸素はすべてアルコールを酢酸に転換するために使われていることを示している。そのためにこの間は肝臓ではこれ以上酸素を使えないので生じた酢酸をクエン酸回路で酸化することができないことも示している。生じた酢酸は肝臓外(主に筋肉)に運ばれて酸化される。

なお,図1に示すように強力型アルデヒド脱水素酵素をもつ正常型の人も強力型アセトアルデヒド脱水素酵素を欠損する欠損型の人もアルコールの消失時間は共に4時間で全く同じである。アルデヒド脱水素酵素の正常型の人も欠損型の人も同じ時間でアルコールが消失することに疑問が生じるかもしれないが,これは酵素反応の性質から説明できる。図2はアルデヒド濃度と酵素活性の関係を示したものである。酵素は一般に基質(アルデヒド脱水素酵素であればアセトアルデヒド)濃度が上昇すれば反応速度は速くなり,ある濃度以上では最大速度に到達して一定となる。強力型酵素を持たない人では非強力型酵素のみが働くので低濃度のアセトアルデヒドでは反応速度は遅い。このために血中のアセトアルデヒド濃度が上昇するが,その濃度が上昇すると反応速度が大きくなりアセトアルデヒドの酸化が進行する。ヒトの肝臓に存在する強力型酵素と非協力型酵素の最大速度にたまたま大きな差がないのでアルコールに弱い人でも強い人に見劣りしない速度でアルコールは酸化される。ただし,欠損型の人は血中アセトアルデヒド濃度が大きく上昇するために少し飲んだだけで顔面紅潮とはげしい動悸に襲われる。なお,一方の親からアルデヒド脱水素酵素正常型遺伝子を,もう一方の親から欠損型遺伝子を受け継いだヘテロ接合型の人では顔面紅潮が起こるものの正常型の人の半分程度ではあるが強力型アルデヒド脱水素酵素を持つのでアセトアルデヒド濃度が大きく上昇することなく酒を飲むことができる。

 自動車を運転する人は酒1合,またはビール1本飲めば血中のアルコールが消失するのに4時間かかるということは頭に入れておくべきである。2合も飲めば8時間かかるので,6時間の睡眠後でもアルコールは体内に残る。翌朝になって大丈夫と思って運転すると飲酒運転になってしまう。注意しなければならない。

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