健康的な酒の飲み方5 アルコールには利尿作用があるか?

 アルコールは利尿剤と言われているが,これは本当に正しいであろうか。少なくとも私にはその代謝を考えると利尿剤とは思えないし,経験的にもビールを飲んだ時以外にはその利尿作用が感じられない。アルコールを飲んでいると高血圧になるという事実も利尿作用とは矛盾するように思われる。まず,なぜ利尿剤とは考えられないかを述べてみたい。

 一般に塩濃度の高い食品を食べれば喉が渇く。これは細胞内外の塩分の濃度差によって生じる浸透圧に因っている。しかし,アルコール飲料では十分に喉が渇くはずの濃度であっても喉が渇くことはない。例えばビールはそのアルコール濃度によって海水よりやや強い浸透圧を示すはずであるが,ビールをいくら飲んでも喉が渇くことはない。これはアルコールが自由に細胞膜を透過することができるために細胞内外に濃度差が生じないからである。ところがアルコールは肝細胞内で代謝を受けて酢酸に代謝される(下図①)。生じた酢酸は細胞内では解離して酢酸イオン(CH3COO)となってマイナスの電荷を生じる。その結果,細胞外からNa+が細胞内に流入してマイナスの電荷が打ち消される(下図②)。細胞内に入ったNa+はこのあと細胞外に輸送されるとともに細胞外のK+が細胞内に輸送されることによりK+に置き換えられる。アルコールが代謝されるとこのように血中のNa+(K+)が減少するのでこれを補うために消化管から血中にNa+(K+)が輸送される。時間が経って酢酸が代謝されてしまうとNa+(K+)が細胞外に出される。その結果,細胞外(血液)の浸透圧が上がる。ただ,肝臓でアルコールから生じた酢酸は肝臓で酸化されることはない。アルコールの脱水素によって生じたNADH2の酸化に酸素が使われてしまうからである。このために酢酸は摂食後のインスリンが分泌されているときには脂肪合成に使われるし,空腹時には血中を経て筋肉に運ばれて酸化される。いずれにしても時間が経てば酢酸は肝臓からは消失するが,血中では酢酸イオン(CH3COO)も増加して血中の浸透圧は上昇する。これを打ち消そうとして水が消化管から供給される(下図③)とともに,水の排泄が抑えられる。酒を飲んだ翌日にお冷が美味しく感じられるのはこのためである。このようにアルコールを飲んですべてが代謝されて血中の酢酸も無くなった時には循環血液量が増加する。アルコールを習慣的に飲んでいると高血圧になるのも説明できる。なお,アルコールはこの様に長期間飲み続けていると高血圧をもたらすが,飲んだ直後(数時間の間)はアルデヒドの作用で血管拡張が起こるので血圧は低下する。

 この様なアルコールの代謝を考えると,少なくとも飲んだあと数時間くらいの間にアルコールが利尿作用を示すとことは考えにくい。実際に私は就寝前にウイスキーあるいは焼酎の水割り(お湯割り)をのむとあまり夜中に小便に起きることがない。ただし,ビールを飲むとよく小便に行くが,これはアルコールの作用というより,水の摂りすぎに因っているのではと思われる。

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