筋グリコーゲンとグルタミン-健康維持の生化学を終えるにあたって-

 一年間にわたり健康にまつわる問題,特に肥満,運動,飲酒の生化学について書いてきましたが,お伝えしたいことは大体書いたように思いますので,このシリーズはこれで一区切りつけたいと思います。本来ならば生体物質についての説明から始めなければならなかったのですが,それを話していると退屈さのあまり生化学への興味が失われてしまうように思い省いてしまいました。そのために理解しづらい点が多くあったことと思います。我慢強くお付き合い頂き有難う御座いました。心より感謝します。

 健康であるためには病気に罹らない事が第一です。日常生活の中で頻度の高い病気と言えば感染症ですが,これは血中グルタミン濃度を上げておくことでかなり防ぐことができます。グルタミンは増殖の速い白血球にとって極めて優れた栄養源となるために免疫力が強化されるからです。さらにグルタミン濃度が維持されていると(一定量のごはん,パンなど糖質の摂取も必要であるが)グリコサミノグリカンヒアルロン酸など軟骨の構成成分,ムコ多糖)も十分に合成されて関節痛も起こりにくくなります。老人がよく関節痛を患うのも血中グルタミン濃度の低下に因っています。グルタミン濃度が維持されれば感染症にもかかりにくく,足腰も痛まず元気な生活を送ることができます。グルタミンの合成は筋肉で行われ,その炭素骨格は筋肉のグリコーゲンから供給されます。人間の体は合理的,かつ怠け者にできていて使わないものは作らない性質があります。筋肉も使っていないと退化してグリコーゲンの合成能も蓄積量も低下してしまいます。グリコーゲン蓄積量を維持するには普段から運動をおこなうことによって筋肉を働かせておく必要があります。さらに窒素源はタンパク質から供給されるのでタンパク質を十分摂る事も必要です。老人は筋肉が衰え,食も細くなるので血中グルタミン濃度が低下して感染症に罹りやすくなり,さらには関節痛も患ってしまいます。これを防ぐには筋肉のグリコーゲンを十分に蓄え,タンパク質を多く摂るように努めることです。筋肉のグリコーゲンの蓄えを増やすには運動で筋肉を鍛えることに加えて,ほどほどの糖質摂取が必要です。運動で筋肉を使い,バランスの取れた食事を摂っていれば感染症はかなり防ぐことが可能です。今年の8月に鹿児島大学付属病院で多剤耐性菌アシネトバクターによる院内感染が起こったことが報道されましたが,これもすべて血中グルタミン濃度の低下に因っていると考えられます。寝たきりの入院患者では筋肉が衰えて血中グルタミン濃度は低下しやすい状態にあります。この様な人はサプリメントを使ってでも血中グルタミン濃度を上げる必要があります。遊離アミノ酸としてのグルタミンは酸性溶液では分解しやすいので遊離アミノ酸の形で摂取しても胃酸で分解してしまいます。これを防ぐにはタンパク質またはペプチドとして摂取しなければなりません。ペプチドのサプリメントとしてグルタミンペプチドなるものが市販されています。これは小麦タンパクのグルテン酵素で部分的に加水分解して吸収しやすくしたもので,数種類の商品が販売されていますが,余分な物が入っているものは値段が高いだけでグルタミンペプチド含量が低く,十分な効果は期待できません。

 このようにグルタミン合成に必要な筋肉のグリコーゲンは健康維持に重要な役割を担っています。運動で筋肉を鍛え,筋グリコーゲンの蓄えを増やしておくことが健康維持に重要です。私は本ブログで錦栗耕彦(にしきぐりこうげん)と名乗っていますが,この名前は「筋グリコーゲン」と読むこともできます。よく健康であるためには適度な運動とバランスのとれた食事が大切と言われますが,これこそが筋グリコーゲン量を維持する秘訣であると思います。

 グルタミンがなぜ感染症を防ぐかについては2017年9月頃の本記事でもう少し詳しく述べていますので必要ならばご参照ください。

 今までつたない記事にお付き合いいただき本当にありがとうございました。これからは頻度は低くなりますが,生化学的問題に限らず独り言を大声で発したくなった時にはブログに書きたいと思います。よろしくお願いします。