グルタミンによる免疫力強化― その2

 激しい運動の後に風邪を引きやすいことは多くの人が経験もしているし,広く知られていることである。なぜだろうか?原因は血中グルタミン濃度が低下するからであるが,なぜ運動でグルタミン濃度が減少するのであろうか。その説明の前に体内でどのようにしてグルタミンが合成されるかを述べて,その後にグルタミンの減少する理由を述べたい。

(1)体内でグルタミンの合成

 グルタミンを生成する主な臓器は筋肉と肝臓であるが,肝臓ではグルタミンが生じても分解されて尿素合成に利用され,合成された尿素は尿中に排泄される。したがって肝臓でグルタミンが生じても肝臓ですべて処理されるので他の組織では利用できず,体内にグルタミンを供給することはできない。このために体内にグルタミンを供給できる臓器は筋肉のみである。アミノ酸がエネルギー源として使われるときには窒素を含んだアミノ基という原子団は取り除かなければならないが(燃えるものは炭素と水素のみである),このアミノ基を受け取ってくれるのがα-ケトグルタル酸である。この化合物はクエン酸回路というATP産生に関わる代謝系の代謝中間体であって,アミノ基を受け取りグルタミン酸となる。アミノ酸のアミノ基が他の化合物に移される反応はアミノ基転移反応といわれるが,体内で起こるすべてのアミノ基転移反応でアミノ基を受け取る化合物はα-ケトグルタル酸である。その結果α-ケトグルタル酸はグルタミン酸となり,グルタミン酸はさらにアンモニアと結合してグルタミンとなるのであるが,このことは体内におけるグルタミンの重要性を示唆している。

 筋肉でアミノ酸代謝に伴ってグルタミンが生じる反応が進行すると筋肉のではα-ケトグルタル酸が消費される。生じたグルタミンは筋肉内で一部はα-ケトグルタル酸に戻されてエネルギー源として利用されるが,多くは血中を経て他の臓器に運ばれて利用されるので,グルタミン合成が進行すると筋肉のクエン酸回路のα-ケトグルタル酸量は次第に減少する。この反応が進行し続けるとα-ケトグルタル酸はやがてなくなってしまう。このような事態に陥るとクエン酸回路は停止してATPを産生も止まり生命の維持もできなくなってしまう。この事態を避けるためにα-ケトグルタル酸が供給されるが,この供給は筋肉のグリコーゲンから行われる。

 要するにグルタミンは筋肉でグリコーゲンから供給される炭素骨格とタンパク質から供給されるアミノ酸の窒素とから合成される。

(2)激しい運動の後でグルタミン濃度が低下する理由

 上で述べたようにグルタミン合成の際に炭素骨格を供給するα-ケトグルタル酸はグリコーゲンから供給されるが,激しい運動で筋肉のグリコーゲンが枯渇するような事態になるとグルタミン合成に利用する炭素骨格は供給できなくなる。特にマラソンのような激しい持久運動ではグリコーゲンは枯渇状態に陥り,グルタミン合成は停止する。その結果グルタミン濃度が低下して免疫力が低下する。

 読者の中には血中グルコースからα-ケトグルタル酸を供給できるのではと思われる人もいるかもしれないが,筋肉は血糖を利用できないのである。筋肉がグルコースを利用するのは摂食後の血中グルコース濃度が高くなってインスリン分泌が上昇しているときにグリコーゲン合成に利用するだけであって,そのほかのことには一切グルコースを使わない。特に運動時に筋肉が直接グルコースを使用したのではたちまちのうちに低血糖状態に陥ってしまう。徒歩でも1分間に4 kcal消費するのに血糖は総量で5g(糖は1gで4kcalの熱量)しかないことから明白である。5分間歩いただけで血糖が0になってしまう。筋肉には運動時に血糖を利用しないでグリコーゲンを利用する仕組みが備わっている。あくまでも血中グルコースは脳のためのものである。

 一般にひどく疲れると風邪など感染症に罹りやすくなると言われるのは筋肉のグリコーゲン量が減少して血中グルタミン濃度が低下して免疫力が低下するからである。逆に日ごろからスポーツで筋肉を鍛えている人は蓄えられているグリコーゲン量も多く,感染症に罹りにくいし,仮に感染しても軽くて済むことが多い。ただ,筋肉を鍛えていても激しいトレーニングでグリコーゲンが枯渇した状態に陥っていると軽症で済むとは限らなくなるので,そのようなときにはアミノ酸のもとになる十分量のタンパク質とグリコーゲンのもとになるごはんを摂ることが大切である。