NHKためしてガッテンの誤り―レモンが骨密度を上げるメカニズム―

3月31日に放送されたNHKテレビためしてガッテンでレモンに骨密度を上げる効果があることが放送された。瀬戸内海に浮かぶ広島県大崎上島ではレモンが良く取れ一人当たり5日に1個のレモンを消費しているためにこの島の人は骨密度が全国平均よ13%も高いということである。番組ではカルシウム塩の懸濁液にクエン酸を加えることでこれが溶けて透明な液体になることを示してクエン酸がカルシウムと水溶性のキレート化合物を作ること,また別の実験によって牛乳にクエン酸を加えるとカルシウムの吸収が8%増えたという実験結果を報告することでレモンが骨密度を上げる原因がレモンに含まれるクエン酸がカルシウムとキレート化合物を形成して吸収を助けるためであると結論付けていた。

しかしこの放送には大きな誤りがある。第1はクエン酸によって8%ほどカルシウムの吸収が上昇したということであるが,8%程度の差は有意差とは言えず,牛乳を飲む量の個人差に比べれば誤差範囲である。この差で骨密度が全国平均より13%も上げることを説明することは出来ない。第2は我々が日常摂取する食品のなかでカルシウムが水に不溶性の個体として存在していて,それがクエン酸で水溶性に変化するようなものが有るのだろうか。絶対にないとは言い切れないが,仮にあったとしてもごく稀で日常我々の口に入ることはまずないであろう。要するにクエン酸がカルシウムと水溶性のキレート化合物を形成することがレモンによる骨密度を上げる原因ではないと考えられる。

レモンによる骨密度上昇のメカニズムが分からなくてもレモンを食べれば良いじゃないかという意見も出そうであるが,はっきりしておかなくては骨密度を上げるサプリメントとしてクエン酸でも世に出回ることになる可能性もある。特に信用度の高い“ためしてガッテン”で放送されたことであるだけにはっきりしておかなくてはならない。

それではレモンによる骨密度上昇効果はどのようにして起きるのだろうか。一般に骨と言えばカルシウムが頭に浮かぶが,カルシウム以外に骨の重要な構成成分がある。コラーゲンである。このコラーゲンの合成にはビタミンCが必須である。コラーゲンは3本のタンパク質鎖が合成された後に酵素の作用で修飾されて3本のタンパク質鎖が互いに結合して束を作ることでコラーゲンが完成する。このとき修飾する酵素が働く上でビタミンCが必須なのである。レモンを十分に摂ることでコラーゲンが合成されやすくなって骨密度が上昇したと考えられる。大事なことはビタミンCを摂ることである。

世間ではコラーゲンを補うのにコラーゲンのサプリメントが出回っているが,コラーゲンを含めてタンパク質は経口的に摂取しても消化管の中でアミノ酸に分解されてしまう。食べたタンパク質がそのまま体内で機能するようなことは絶対にない。コラーゲンのサプリメントを売るのは詐欺行為である。コラーゲンを増やそうと思うならタンパク質とビタミンCを取るべきである。