グルタミンによる免疫力強化と癌細胞増殖作用

私は5年前と4年前の検査ではPSA値(前立腺特異抗体)は10~11程であったが,今回の検査で24に上昇した。MRI検査を行ったところ前立腺内に複数の悪性腫瘍と思われる像が認められた。そのうちの一つは4年前の検査では12mmであったが今回の検査では14mmになっていた。それほどに大きくなってはいないので悪性度は低いと思われるが細胞検査を受けなければならなくなった。

PSA値の急激な増加には思い当たることがある。私は10か月ほど前に自転車で転んで右膝の半月板を傷めた。さらにその4カ月後にテニスをしていて右膝をかばったがために左膝を傷めた。膝の痛みを治すために関節液のヒアルロン酸合成を促進しようとしてグルタミンペプチドを頻繁に摂った。グルタミンペプチドは日清製粉から販売されている小麦粉蛋白質グルテン酵素的に部分加水分解して消化吸収され易くしたものでグルタミンを30%含むものである。摂食後にグルタミンを供給すればグルコサミンが合成され,ヒアルロン酸が合成されることが期待されるからである。しかし,当たっているかどうかは疑問であるが,このグルタミン供給がPSA値の上昇を招いたような気がしてならない。

グルコースから炭素骨格が生じたところにグルタミンが供給されればアミノ基転移酵素の作用で必須アミノ酸以外のアミノ酸はすべて合成される。またグルタミンは体内でグルクエン酸回路の代謝中間体(α-ケトグルタル酸)を供給してクエン酸回路(糖,脂肪酸からの生成物を酸化してエネルギー産生に関わる代謝系)の流れが太くなりATP供給速度も増加する。こうしてグルタミンはタンパク質合成の原料のアミノ酸と必要なエネルギーを供給するので細胞の増殖には非常に優れた栄養源となる。

免疫に関わるリンパ球は増殖速度が速いのでグルタミンは特に優れた栄養源となる。このためグルタミンは免疫力の強化をもたらす。私は風邪を引いたと感じた時にはグルタミンペプチド10g程度をぬるま湯に溶かして寝る前に飲むようにしているが殆どの場合,翌日にはきれいに治ってしまう。グルタミンはウイルス性の感染症を防ぐには極めて効果的である。

グルタミンを食品サプリから摂らなくても体内のグルタミンを増やす方法は肉を食べることである。グルタミンは食肉中にも多く含まれているが体内では他のアミノ酸からも合成される。グルコースから(筋肉ではグリコーゲンから供給されたグルコース)炭素骨格が作られたところにアミノ酸が供給されればグルタミンが生成するからである。グルタミンの産生臓器は筋肉である(肝臓でも生成するが肝臓で生じたグルタミンは尿素合成に使われてしまう)ので健康を維持するためには筋肉を増やして肉を食べることも重要である。筋肉が発達し,肉をよく食べる人が健康であるのはこのようなことに因っている。ただし,グルタミンは良い結果ばかりをもたらすとは限らない。

問題は癌細胞も増殖の速い細胞でありグルタミンを好んで利用することである。特に筋肉の発達した人がタンパク質を多く摂るとグルタミンが多く出来過ぎて癌の進行が速くなってしまう。今までに多くの力士(北の湖千代の富士,北天裕,朝潮逆鉾,寺尾,時天空ら)が若くして癌で亡くなっているがこれは筋肉が発達しているとグルタミンが多く生成することに因っている。力士でなくても若い人では癌の進行が速く,年寄りの癌は進行が遅いと言われるのも筋肉でのグルタミン生成に因っていると思われる。筋肉の発達がグルタミンを増やし癌の悪化をもたらすならば筋肉の多い男性の方が女性より癌での死亡率が高いことが予想される。実際の統計データでは癌による死亡率は女性が6人に1人であるのに対し男性は4人に1人ということである。グルタミンは免疫力を強化する一方で癌細胞の増殖促進作用も持っていることは注意しなければならない。

激しい運動をした後で,あるいは疲労困憊したときに感染症に罹るのはよく経験するところである。これはグルタミン合成が低下するためである。筋肉でグルタミンが合成される際にはグリコーゲンの分解で生じたα-ケトグルタル酸からグルタミン酸が生成し,さらにこのグルタミン酸からグルタミンが生じる。激しい運動で筋肉のグリコーゲンが枯渇状態になるとα-ケトグルタル酸の供給ができずグルタミンレベルが低下して免疫力が落ちるからである。  

私が今回の検査でPSAの値が急激に増えたのは膝の故障を治そうとしてグルタミンペプチドを頻繁に摂取したことに因っているのではないかと思えてならない。

なお,グルタミンを遊離のアミノ酸の形で飲むと胃酸で容易に分解してピロリドンカルボン酸とアンモニアが生じる。有毒なアンモニアの発生は避けるべきである。グルタミンはタンパク質あるいはペプチドの形で摂るのが望ましい。

少子化に関して思うこと

日本と言わず世界の先進国で出生数の減少が起こっている。中国の様に人口の多い国では一人当たりの収入が低くても国としては経済力,軍事力も強くなるので国は人口の増加を望むのであろうが,地球の食糧,エネルギー,環境汚染などの問題を考えれば日本の人口は5千万人くらいに下げた方がいいように思う。大事なことは一人当たりの豊かさである。

政府は国力を強くしたいので少子化を防ごうとして国民に一時金を配布しているがこれは票稼ぎには役立つかもしれないが少子化を防ぐには何の役にも立たない。なぜ少子化が起こっているか。それは女性が社会に出て活動し始めたことに起因するが,働く意思がある人が働くのは当然のことである。中には家庭で子育てと家事に専念したいと思っていても連れ合いの収入だけでは生活ができないので働きに出る女性も多くいることと思う。夫婦が共に働いているならば欠かせないものは保育所である。共働きの夫婦は子供を預けるところが無くてどうして子供を作ることが出来るだろうか。政府は少子化を防ぎたいと思うなら,働く人の給料を上げること,保育所を完備することである。一時金を配ったところで票集めには効果があるかもしれないが国の財政赤字を増やすだけで効果は全く期待できない。勿論,給料を上げること難しいことであろうが上げる努力はして欲しいものである。何事も改善しなければならないことが起こった時はその原因を考えて手を打たねばならないことは当たり前のことである。

もう一つ,少子化に関連してよく報道で一人の女性が一生の間に産む子供の数を表す日本語として「特殊出生率」なる言葉を目にする。これはspecific birth rateを日本語訳した言葉であるが,自然科学分野ではこのようなときに"specific" の日本語訳として「比」が用いられる。例えばある物質1グラムを1℃上げるのに必要な熱量specific heat capacityの日本語訳は「比熱」であるし,またある物質と水の単位体積当たりの質量比specific gravityは「比重」である。また生化学分野で使う酵素タンパク質1mg当りの活性specific activityの日本語は「比活性」である。このような自然科学分野での言葉の使い方を考慮するならspecific birth rateの日本語訳は「比出生率」とすべきである。それにしても「特殊出生率」とはおかしな訳をしたものである。多分,最初に日本語訳した人が自然科学分野での一般的な言葉の使い方を知らなかったためにこのような日本語ができたものと思う。確かに辞書でspecificを引けば「特殊の」「特有の」というような訳が出てくるのでこのような訳となったのであろうが,一人の女性が一生の間に産む子供の数がどうして特殊なのか。全く恥ずかしい訳である。specific birth rateの日本語は「比出生率」に改めるべきである。

森友改ざん問題 大阪地裁判決に大喝

森友文書改ざん問題で大阪地裁は,佐川氏の賠償責任を認めず,赤木さんの請求を棄却した。国家公務員が職務で国民に損害を与えた場合は国が責任を負い,公務員個人は負わないとする最高裁判決に基づいたということである。

私には裁判官がなぜこんなお粗末な判決を出すのか不思議に思えてならない。裁判官とは余程に世間の常識が通用しない人種であるようだ。確かに公務員が最善を尽くして行った仕事が諸般の事情で国民に損害を与えることもあるであろう。そのような場合には最高裁の判決も理解できる。しかし,森友問題では佐川氏は「文書改ざん」という明らかな違法行為を赤木さんに強いたのである。赤木さんが自分の命を絶とうと決心したほどの犯罪行為である。大阪地裁は佐川氏の犯罪行為を彼が公務員というだけで国の責任と言うのであろうか。森友文書改ざん問題は善良な公務員の過ちによって起こった問題ではなく,佐川氏が意図的に行った犯罪行為である。こんなことが国の責任となって公務員というだけで罰せられないなんてことがまかり通る,まともな人間ならば認めるはずがないことである。公務員が真面目に仕事をして生じた過ちと明確な犯罪行為を区別もできない大阪地裁の判決はあまりにもお粗末である。大阪地裁に大喝である。

日本人は目先のことしか見ないのだろうか

日本はかって経済大国と言われたが今では給料は韓国にも抜かれてしまった。これは給料を上げれば競争に負けるということのみを重視して企業の経営を優先してきたからに他ならない。給料を10%上げても物価はせいぜい2~3%しか上がらないのに。また日本経済発展のために工業製品の輸出を重視した結果,円高を招き国内の農業,林業は衰退してしまった。地球人口が80億を越えやがて100憶に達しようとしている時にどのように食料を確保するか深刻な問題となっている。

今朝の新聞には最近では採算の取れない鉄道を廃止してバスに切り替えるとい国土交通省有識者会議案が載っている。現在では61路線の廃止が考えられているということであるが,人口が減れば更に廃止路線は増えるであろう。地方の街は鉄道の駅があり,駅前商店街があって成り立っている。バスに切り替えればバス道路も整備され自動車に頼る生活になるであろう。鉄道の駅が無くなれば商店街もなくなり自動車のない老人が生活に困る事態は生じないだろうか。ますます過疎化が進んで農業はさらに衰退するのではないだろうか。有識者会議は10年後,50年後の社会がどうなるかを考えて案を出したのであろうか。

敵基地攻撃能力

ロシアによるウクライナに対する武力侵攻は日本人の軍備に対する考えに大きな影響を与えている。これを機会に政府は軍事費を2倍に増額しようとしている上に自衛隊に敵基地攻撃能力までも持たせようとしている。敵基地攻撃能力とは相手がミサイルで攻撃しようとする兆候があればその前に相手のミサイル基地を攻撃して潰してしまおうとするものである。戦争が始まってしまえばすでに攻撃し合っていて敵基地を攻撃している(自衛という大義名分で)わけだから,ここで問題となる敵基地攻撃能力というのは戦争が始まる前の段階での攻撃ということになる。だから政府は「敵基地攻撃能力」という言葉が先制攻撃と受け取られるのを嫌って「反撃能力」と言ってごまかしているが相手が攻撃をする前に攻撃するのであるから先制攻撃には変わらない。

敵のミサイルは一か所から飛んでくるわけではない。数か所から攻撃が仕掛けられるであろう。潜水艦からも飛んでくるかもしれない。そのようにいくつもの所から飛んでくるミサイルをすべて叩き潰せることができればよいが,そんなことは不可能に近い。こちらから先に攻撃を仕掛ければ相手に攻撃の口実を与えるだけである。叩き潰しそこなった基地から飛んできてしまう。先に攻撃を仕掛けたという汚名が残るだけである。どう考えても敵からのミサイル発射前に敵基地を叩き潰すという戦法が成功するとは思えない。今回の参議院議員選挙でもロシアのウクライナ侵攻に乗じて敵基地攻撃能力を備えることを公約に掲げている政党がいくつかあるが,憲法によって戦力を持つことが禁じられている日本でどう解釈すれば先制攻撃が許されるのであろうか。どうも候補者が日本国憲法を理解していないかあるいは軍事的な必要性よりはアメリカからの圧力と軍需産業の活性化による日本の景気促進が裏にあると思えてならない。

もう一つ,とんでもないことは国の予算はどうしても必要なものと判断された後にその金額考慮して決められるのにその議論が全くなされずにいきなり倍増しようとしていることである。こんなとんでもないことが許されるはずがない。防衛費の倍増を許せば5,6兆円ほどの予算が必要である。現在の国の財政は1000兆円を越える借金を抱えている。さらに最近のアメリカでの利上げによって行き過ぎた円安になっているが,日銀は借金で身動きが取れない状態で日本での利上げが出来ず,円安に対して打つ手がなくなっている。1%の利上をすれば利息だけで10兆円も支出が増えるからである。防衛費を倍増すればさらに日本の財政赤字が増加する。こんなことが許されるのか。日本をこのように首の回らない借金まみれの国にしたのは国の予算を国民のためではなく自分たちの票稼ぎのために使ってきた身勝手な国会議員のせいである。

戦争よりも経済制裁

 朝,目が覚めるときには今日こそはロシアでクーデターが起きてプーチンが拘束されていないかと期待してしまう。そうでもならない限りウクライナ問題は解決しないように思われる。評論家の中にはトランプがアメリカの大統領であったならプーチンウクライナに攻め込むことはなかったと言っている人が居るが,どうして世界中の人の命をトランプやプーチンのような噓つきの狂人に託すことが出来ようか。危なっかしくてたまったものでない。世間ではバイデンが弱腰というような非難も聞かれるが,もしバイデンが強硬姿勢に出たならば世界戦争になってしまう。経済制裁で対抗したバイデンの方針は間違っていなかったと思う。

現在の世界の国々が互いに依存したグローバル化社会では他国との交易なしには豊かな生活は不可能である。豊かさが崩れれば権力者も国民からの支持を失い政権の維持は出来なくなる可能性は大きくなる。豊富なエネルギー資源に頼ってロシアを豊かにしてきたプーチン政権も他国が石油やガスを買ってくれなければどうしようもない。プーチンの命運は尽きたようなものである。嘘の情報で国民をだましているが嘘がばれるのは時間の問題である。バイデン大統領が武力に訴えないで経済制裁を選んだことは正しい選択であったと思う。勿論,経済制裁を行えば行う方も手痛い損害を被ることになるが戦争で国が荒らされ多くの人が命を失うことを思えば我慢しなければならないことである。

もう一つ経済制裁の成功に期待する理由は中国が台湾へ攻め込むことを諦めることになる可能性があると思われるからである。中国はまだロシアの側に立っているようであるが,プーチン政権が経済制裁で国民の支持を失って倒れるようなことになれば経済発展で国民の支持を得てきた習近平は台湾を無理やり併合してロシアと同じ運命をたどるようなことは避けるのではと期待される。経済制裁が早くに効果を上げてプーチン政権が倒れること,さらには中国が台湾攻略を諦めてくれることを祈るばかりである。

筋肉と健康5

(4)コレステロールの問題

 食物として摂取した糖質は肝臓と筋肉でグリコーゲン合成に最優先して使われる。筋肉のグリコーゲンは運動のエネルギー源として蓄えられる。筋肉のグリコーゲンは動物が獲物を追っかけて捕まえる上で必須であり,肝臓のグリコーゲンは空腹時の血糖補給に使われ脳の機能を維持するためには必須なものである。この二つが無いと生体は生命を維持することができない。そのために生体は摂取した糖質はまず最優先してグリコーゲン合成に使い,過剰となったもので脂肪を合成してこれを脂肪組織に蓄える。このとき脂肪と同時にコレステロールも合成される。したがって当然のことながら大食いすれば脂肪がたまりコレステロール値の上昇が起こる。逆に脂肪太りや高コレステロールを防ぐには運動で筋肉のグリコーゲンを消費しておき,さらに空腹になるまで食事を我慢することによって肝臓のグリコーゲンをできるだけ減らしてほどほどの量を食べることである。肝臓で合成された脂肪やコレステロールはVLDLと呼ばれるリポタンパク質を形成して肝臓から体内の各組織に運ばれる。VLDLは脂肪組織(皮下脂肪や内臓脂肪)に脂肪を渡したあと悪玉コレステロールであるLDLを生じる。小腸で吸収された脂肪やコレステロールはキロミクロンを形成して脂肪組織に運ばれるが,キロミクロンからはLDLを生じないので肝臓で糖質から合成される脂肪やコレステロールのほうが食物として摂取したものより健康維持には良くないと言うことができる。糖質は優れたエネルギー源であり必要なものであるが大食いは健康の敵と思わなければならない。

 体内でコレステロールは胆汁酸,ステロイドホルモン,ビタミンDなどの合成に使われるが,その中で最も多く使われるのが胆汁酸合成である。胆汁酸は肝臓で作られ,胆嚢から十二指腸に分泌され脂質の消化をし易くする作用を持つ物質である。1日に30グラム程分泌されるが,90~95%は小腸で再吸収されて肝臓に戻される。したがって少なくとも1.5グラムは糞便中に排泄されるので1日に食品から摂取する分と肝臓で合成される分がこれを越えなければコレステロール値が上昇しないはずである。一方,食品に含まれるコレステロールは最も多いと言われる卵黄で1個あたり260mgである。また肉に含まれるコレステロールは100gあたり60mg程度であるから1日に肉200gと卵2個食べてもコレステロールの摂取量は640mgである。1日の許容量の半分にも満たない。肝臓で糖質から合成される量の方がかなり多いのである。一般においしい食べ物には脂質が多く含まれるのでコレステロールが多いからと言って食べないのはバカバカしいことである。大事なことは糖質の食べ過ぎを避けることである。しかし,糖質は脳が必要とする重要なエネルギー源である。1回の食事ではご飯茶碗に軽く一杯分の糖質は食べるべきである。

 

(5)コレステロールは本当に悪者なのか

 世の中ではコレステロールは健康の敵のように言われているが,20数年ほど前にコレステロール悪者説をひっくり返す論文が信頼度の極めて高い雑誌に発表された。血中コレステロール値は220mg/dLを超すと高コレステロール血症と診断されコレステロール合成を抑える薬を飲まされることになっているが,その論文によればコレステロール値の高い人ほど健康で長生きをするということである。下図は血中コレステロール値が190mg/dL以下の人(低い人),190~250mg/dLの人(中くらいの人),250mg/dL以上の人(高い人)に分けて,それぞれの心疾患,感染症,癌での死亡率,さらに総死亡率を示したものである。

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感染症や癌での死亡率もすべての病気での総死亡率も血中コレステロール値が高い人で最も低く,その値が低い人で最も高い結果が得られている。コレステロール値が高いと循環器系では死亡率が高くなることが予想されるがそれでも3群に差はなかった(図8)。この結果は悪者扱いにされてきたコレステロールを見直さなければならないことを示している。多くの人はコレステロール値が上がらないように食事制限を行っているがこの努力があまり意味のないことになる。少なくとも現在220mg/dL以上を高コレステロール血症としている基準は変更すべきである(最近の健康診断の結果を見ると基準値の上限は250mg/dLとなっている)。

 

(6)コレステロールから作られるビタミンD

最近の報告では血中ビタミンD濃度が30ng/mL以上の人はコロナ感染をしにくい,あるいは感染しても死亡率が低いと言われている。ビタミンDの受容体が免疫に関わる多くの細胞に発現していることと合わせて大変興味深いことである。

体内のビタミンDは食品由来のものが50%,血中のコレステロール代謝物から体内で作られたものが50%と言われている。食品由来のものもコレステロール由来のものも共に紫外線の作用でビタミンD前駆体となった後に肝臓と腎臓で代謝を受けて活性型ビタミンDとなる。このビタミンDが免疫系においても機能していることがオレゴン大学ライナスポーリング研究所からの論文で紹介されている。このタイトルが「ビタミンD」の論文は日本語で一般向けに書かれており,ネットで「ビタミンD ライナスポーリング研究所」と入力して検索すれば容易に見つけることができるので興味のある方は是非読んでいただきたい。

コロナウイルス感染による重症化は免疫系の暴走も一因と言われているが,ビタミンDは免疫系の強化のほかに,免疫系の調整も行うことが言われているのでこの作用が重症化を防いでいると思われる。新聞紙上でスポーツ選手のコロナ感染が報道されるが,野球選手やサッカー選手では殆どが軽症または無症状で済んでいるようである。これは彼らが太陽の下で紫外線を浴びてビタミンDを作り,筋肉を鍛えてグルタミンを増やしていることに因っていると思われる。

またビタミンDには感染症予防以外に癌の発生や死亡も減少させる作用があることが上記「ビタミンD」論文に述べられている。血中の活性型ビタミンD量が20ng/mL増加するとがん全体の発生率が11%,死亡率が17%低下するということである。緯度が高いところに住んでいる人では乳がんによる死亡率が高くなると言われるが,これもビタミンDレベルの低下に因っていると思われる。

コレステロール値の高い人が低い人より感染症や癌での死亡率が低いという図8の結果はコレステロール代謝物から作られるビタミンDに因っていると言いたいが,そのためにはコレステロール値と血中ビタミンD濃度の関係を調べる必要がある。

 ビタミンDの1日に必要な接種量は成人では8.5μgと言われている。多く含む食品としてイワシ丸干し(1尾30g):15μg,サンマ(1尾100g):14.9μg,カレイ(1尾100g):13μgなど魚に多いが,特にサケ(1キレ80g)には25.6μgと多く含まれている(干しシイタケには多いと言われているが1個(3g)に0.4μgである)。これら含有量の高い食品を摂ると同時に日光を十分に浴びていればまずビタミンDが不足することはないと思うが,十分でないようと思われるならサプリメントでとることも可能である。

  コレステロールはこのようにビタミンD合成に使われ健康維持に大きく役立っているにもかかわらず成人病の原因物質のレッテルを貼られてきた。なぜ悪者扱いにされてきたのであろうか。この問題に関して有力な説が提出されているが,その説に因れば真犯人は植物油に多く含まれるリノール酸ということである。リノール酸はn-2(ω-2)に属する必須脂肪酸であるが,このものからは体内でエイコサノイドと呼ばれる生理活性物質が生成する。その中にはロイコトリエンという炎症を引き起こす物質がある。このものは生体が機能するうえで重要な役割を持つ物質であるが,植物油を多く摂りすぎると炎症が必要以上に起きやすくなる。特に血管内にコレステロールが多く存在する状態で炎症が起こると血管が塞がれて虚血性疾患となってしまうということである。この説によればコレステロールだけでは問題が起こらないが,植物油の摂りすぎで炎症が起きやすくなることが問題であるということである。近年,消費が年々増加している植物油がその共犯者である可能性は大きいように思われる。

 

(7)タンパク質による関節痛予防

 運動によって過剰な脂肪を燃やすことは健康を維持する上で欠かせないが,老人では少しの運動で関節痛が起こり運動が出来なくなってしまう。関節滑液や軟骨にはヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸といったアミノ糖(アミノ基を持った糖)を含む化合物が存在するのでこれの補給を改善すれば関節痛を防ぐことができる可能性が考えられる。アミノ糖の中心となるものはグルコサミンであり,このものはグルコース代謝物とグルタミンが反応して生成する。普通に食事をしていて不足がちになる成分はタンパク質である。タンパク質さえ十分に摂っていたら,余程の無茶な運動をしない限り関節痛になることはないと思う。サプリメントとしてのグルコサミンに効果があるかどうかは分からないが,そのような怪しげなものを使わなくても肉や魚をやや多めに食べていたらグルコサミンが合成されて関節痛に悩まされることはないはずである。タンパク質は免疫力だけでなく関節をも丈夫にしてくれる栄養成分である。

 テレビのコマーシャルでグルコサミンにコラーゲンやコンドロイチンを加えたものの宣伝を見るが,こんなバカなことをテレビで放送するのかとあきれるばかりである。生体成分であるからと言って食べて効果があるとは限らない。コラーゲンはタンパク質であるから食べれば消化管中でアミノ酸に分解されてしまう。タンパク質のままで吸収されることはない。その機能を期待して高分子化合物のサプリメントを使うことは絶対にしてはならない。高分子化合物がそのまま消化管から吸収されることは絶対にない。消化されればタンパク質はアミノ酸に,またヒアルロン酸,コンドロイチン(硫酸),プロテオグリカンなどは高分子化合物であるからその構成成分に分解されてしまう。そのものの機能は維持されることはない。コラーゲンのような美味しくもなく高価なサプリより肉を食べた方が余程ましである。さらにコラーゲンを体内で合成するにはアミノ酸のほかにビタミンCが必要である。コラーゲンを増やそうと思えばタンパク質を食べてビタミンCを供給することが一番である。高分子化合物は食べれば分解されるので体内で機能が期待できると思うのは大きな間違いである。