健康的な酒の飲み方3 悪酔いの原因は低血糖である

 ヒトは空腹時に血糖濃度の低下を防ぐため肝臓に蓄えていたグリコーゲンを分解するとともに,タンパク質の分解で生じたアミノ酸からグルコースを合成して血中に放出する。アミノ酸からのグルコースの合成にはクエン酸回路が関与するが,クエン酸回路の代謝はNADH2のレベルが上昇すると停止する性質を持っている。酒を飲むとアルコール脱水素酵素アルデヒド脱水素酵素の作用でNADH2のレベルが上昇するので,クエン酸回路は停止してアミノ酸からのグルコース合成は大幅に抑制される。またこのとき筋肉で生じた乳酸もグルコース合成の材料として利用されにくくなって血糖濃度が低下する。下図は学生の協力を得て,空腹時に体重1kgあたり0.4gのアルコール(成人が酒1合を飲んだ量に相当)となるように水で割ったウイスキーを飲んでもらい血糖濃度の変化を調べたものである。1人を除いて被験者の血糖濃度は大きく低下した。アルコールの代謝によるNADH2レベルの上昇によるグルコース合成阻害のためである。なお,血糖濃度の低下しなかった被験者は日頃から多飲の習慣があり,肝臓にMEOSが誘導されていた結果と解釈される。MEOSが働いてもNADH2が生じないからである。

 下図は約酒1合ほどを飲んだ結果であるが,飲んだ量が多くなれば血糖濃度低下の幅も大きくなり,低下している時間も長くなる。このために肝臓のグリコーゲンが減少している空腹状態で多く飲んだ時には,脳がエネルギー不足の状態に陥ってめまい,嘔吐を催すことになる。すきっ腹で飲むとよく回ると言われるのは肝臓のグリコーゲンも減少していて血糖濃度が低下しやすいからである。急性アルコール中毒の人がグルコースの静脈注射でケロリと治るのも血糖濃度の低下が原因であるからである。

 どんな細胞もエネルギー不足になれば細胞死が避けられない。脳細胞は再生しないので死ねばその分減少する。ゲロを吐くときは脳ミソを吐いていると思わなければならない。気分が悪くなった時に糖分を飲めばよいと思うかもしれないが,経口的に摂ったのでは吐いてしまうので効果は期待できない。飲む前に食べておけば血糖濃度も低下しにくいので悪酔いも起こりにくいが,インスリンレベルが上昇しているときには飲んだアルコールがすべて脂肪になってしまうので注意を要する。適度に食べながら飲むのが良いが,これがなかなかむつかしい。アルコールは血糖濃度を下げる作用があるので,飲めば食欲が増進される。飲みながら食べると意外に多く食べてしまう。重要なことはたくさん飲むことではなくは楽しく飲むことである。

 いつもたくさん飲んでいると肝臓にMEOSが誘導される。誘導されたMEOSが多くなるとアルコールを飲んでも血糖濃度が低下しないので悪酔いすることなくとことん飲むことができる。神経がマヒするまで飲んでへべれけに酔っぱらっている人はMEOSが誘導されている人である。MEOSが誘導されている人は悪酔いしないでたくさん飲めるからうらやましいなどと思うのは間違いである。MEOSによって活性酸素が生じ肝臓障害が引き起こされるからである。MEOSの誘導を抑えるためにも多飲の習慣は改めなければならない。

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