タンパク質を多く食べる人は元気である4

健康の維持には十分なタンパク質とほどほどの炭水化物の摂取に加えて適度な運動が必要

 健康維持に必要なグルタミンはヒトの体内ではどのようにして生成するか,もう少し詳しく見てみよう。グルタミンは筋肉で作られるので筋肉量が落ちないように適度な運動を続けることは病気になりにくい体を作るうえで大切である。筋肉での大まかな代謝系は下図のようになっている。

筋肉がエネルギー源として利用するものはグリコーゲンである。図2に示すようにグリコーゲンは分解された後に解糖系と呼ばれる代謝系で代謝されてピルビン酸となるが,この過程で生体のエネルギー源であるATPが生成する。解糖系は効率は悪いが速い速度でATPを産生することができるので激しい運動の際に作動する。生じたピルビン酸の大部分は乳酸に転換されて肝臓に運ばれてグルコース合成に用いられる。軽い運動の際には脂肪酸の酸化によってアセチル-CoAが供給され,これが代謝されることでATPが供給される。アセチル-CoAはオキサロ酢酸と反応してクエン酸を生じる(図2)。生じたクエン酸は2回の脱炭酸反応を含む4段階の脱水素反応を受けてもともとあったオキサロ酢酸を生じる。この反応系はクエン酸回路とよばれ,この回路の脱水素反応で生じた還元性物質は電子伝達系と呼ばれる反応系で酸化されてATPを生じる(図2)。クエン酸回路・電子伝達系は解糖系と合わせてATPを産生する基本的な代謝系である。

 クエン酸回路は供給されたアセチル-CoAを酸化するだけの閉鎖系ではなく,回路の代謝中間体も代謝を受けて消費される。その一つであるα-ケトグルタル酸はアミノ酸代謝されるときにアミノ基を受け取ってグルタミン酸に転換される(図2)。ここで使われるアミノ酸は摂取したタンパク質から生じたもの,あるいは体内のタンパク質が分解して生じたものである。生じたグルタミン酸は前項でも述べたようにさらにアンモニアを受け取ってグルタミンとなって血中に放出される。クエン酸回路の代謝中間体はアミノ酸代謝産物からも供給されないことはないが,アミノ酸代謝されてグルタミンが生成すればα-ケトグルタル酸は減少し,やがてはクエン酸回路の代謝中間体も乏しくなる。オキサロ酢酸が欠乏すればアセチル-CoAも酸化されなくなる。このような事態を防ぐためにグリコーゲンから供給されたピルビン酸からオキサロ酢酸が生成することでクエン酸回路の代謝中間体が供給される(図2)。前回で激しい運動の後で感染症に罹りやすくなることを述べたが,これは運動によって筋肉のグリコーゲンを消耗したためにクエン酸回路の代謝中間体の供給が低下しグルタミン合成ができなくなったためである。筋肉でグルタミンを作るにはアミノ酸を供給するとともに筋肉のグリコーゲンを蓄えておかなければならない。そのためにはごはんあるいはパンなどの糖質を摂らなければならない。糖質は摂りすぎないように気をつける必要があるが不足しがちなタンパク質は十分に摂るよう心掛ける必要がある。厚生労働省の基準によれば成人男性では一日に60グラム(乾燥重量で)摂ることが推奨されている。ごはんは茶わんに軽く一杯くらいは食べるのが望ましい。筋肉のグリコーゲンを増やすにはもう一つ必要なことがある。筋肉は使っていないとグリコーゲンの蓄積量が低下してしまうので常に適度な運動で衰えを防ぐ必要がある。要するにグルタミン濃度を維持するにはタンパク質を多く摂ることに加えてバランスの良い食事,適度な運動によって筋グリコーゲンを増やすことが重要である。筋グリコーゲンは健康のもとと言うことができる。 

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