インターバル速歩は高齢者に適した運動である

 大学のある研究室が企画した運動(インターバル速歩)による健康増進に関する研究に協力して数カ月前からインターバル速歩を始めた。私が行っているインターバル速歩は3分間ゆっくり歩いた後に3分間速歩で歩くのを繰り返す運動である。通常は1時間~1時間半くらい繰り返し歩いている。私は椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄で歩くこともできなくなり昨年の春に手術を受けたのであるが,その後で左大腿部のまわりが右に比べて5cmも細くなり筋力も大きく衰えていることに気づいた。この数カ月インターバル速歩を実行してきたところ左大腿部の太さが右と差がなくなり筋力も戻ってきた。普通のウオーキングをしていても戻ったかもしれないがインターバル速歩が効果を上げたような気がしている。私は普段から週に2~3回は8kmくらいウオーキングをしていたのであるが,その時はなかなか筋力が回復しないと感じていたからである。インターバル速歩はウオーキングに比べるとかなりきつく,その分体力増強に効果があるように感じている。どのような効果が期待できるか述べてみたい。

・筋肉は強度の弱い運動時には脂肪を使う

 筋肉は軽い運動では脂肪を燃やし,負荷が強くなるにしたがってグリコーゲンをエネルギー源とする。グリコーゲンは無数のグルコースが連なった高分子化合物である。肝臓と筋肉は摂食後にグリコーゲンを合成して蓄えるが,肝臓では空腹時の血糖補給に,筋肉では運動時のエネルギー源として利用される。脳はグルコースしかエネルギー源としないために血糖が下がりすぎると脳が機能できなくなり生体は死に至る。また生きて行く上で獲物を捕ること,危険から逃れることは避けられないことであるが,これらは通常は負荷の強い運動でありグリコーゲンがエネルギー源となる。ヒトでは血糖は5 gしかない。この量はジョギングでも7~8分間で枯渇してしまう。全力で走ればたちまちのうちに枯渇して生命の維持ができなくなってしまう。これを防ぐために生体には運動時に血糖を使わず筋肉のグリコーゲンを使う仕組みが備わっている。また運動のために筋肉にグリコーゲンが蓄えられているとは言えグリコーゲンの量には限りがあるのでこの消費をおさえなければならない。そのために筋肉は脂肪を優先して利用する。負荷が強くなって脂肪からのエネルギー供給では間に合わなくなるとはじめてグリコーゲンを利用する。

・摂食後はグリコーゲンの合成が優先して行われ過剰な糖質から脂肪が合成される

 グリコーゲンは血糖の維持,獲物の獲得,危険から逃れるなど生命を守るうえで必須なものであるので生体は摂食後には最優先してグリコーゲンを合成する。その後で過剰となった糖質から脂肪を合成する。したがって一定量の食事を摂った後に脂肪の合成を少なくしようとすれば空腹状態になるのを待って肝臓のグリコーゲンを減少させ,さらに運動で筋肉のグリコーゲン量を減少させて食事を摂ればよいことになる。筋肉のグリコーゲンは空腹となっただけでは減少しない。空腹になっただけで筋肉のグリコーゲンが減少したのでは空腹時に獲物を捕れなくなってしまう。筋グリコーゲンは運動をすることではじめて減少する。ウオーキングのような負荷の弱い運動では脂肪がエネルギー源として使われるので体内に貯まった脂肪を減らすには適しているが,グリコーゲン量を下げる効果は低い。筋肉のグリコーゲンを減らすには負荷の強い運動が必要である。空腹になることで肝臓のグリコーゲンを減らし,さらに負荷の強い運動で筋肉のグリコーゲンも減らして食事を摂ると脂肪合成はその分減少する。このような食事の仕方は脂肪だけでなくコレステロールの合成も抑える。コレステロールの合成も摂食後の血糖濃度の高いときに脂肪合成とおなじ化合物が出発材料として使われからである。

ウオーキングと速歩のエネルギー源

 脂肪は脂肪組織(主に皮下脂肪)で分解されて脂肪酸として血中に放出されて体内の組織で利用される。脂肪酸が筋肉で燃やされるときは細胞内のミトコンドリアという顆粒に運び込まれ,さらに多くの反応段階を経なければならない。このために脂肪酸の酸化では反応速度が遅くなり短時間に多量のエネルギーを要する運動には不向きである。一方,グリコーゲンから乳酸を生じる反応では効率は低いが反応に係わる酵素量が多いために短時間で多量のエネルギーを生み出すことが可能である。激しい運動を行うと血中乳酸濃度が上昇するのはこのためである。普通のウオーキングでは脂肪酸の酸化でエネルギーが供給できるが,速歩のようにエネルギーをやや多く使う運動では脂肪酸からだけでは間に合わず,筋肉はグリコーゲンも使わざるを得なくなる。

 軽く歩くのも健康維持には役立つが,可能ならば呼吸数がほどほどに上昇して筋グリコーゲンを消費する運動が望まれる。あまり激しい運動は膝などの故障を引き起こすので特に高齢者は避けるべきであるが,速歩程度であれば可能である。速歩といえども長時間続ければ疲れて持続できなくなるのでインターバル速歩のようにゆっくり歩きと速歩を組み合わせた運動が高齢者には適している。

・筋肉を鍛えることの意義

 脂肪を燃やすだけの軽い運動より負荷の大きなグリコーゲンを使う運動が健康増進になぜ優れているのだろうか。それは負荷の強い運動が筋肉を鍛えることになるからである。ヒトは環境に適応する性質を持っている。筋肉に強い負荷をかけて運動を続けていると筋肉はその量を増して強くなる。筋肉が強化されれば運動ができて体力の衰えを防ぐことができる。さらに筋肉を強くするトレーニングを続けているとグリコーゲン合成に関わる酵素の量も増えて蓄えられるグリコーゲン量も増加する。筋肉が強くなれば運動でより多くのエネルギーを消費して脂肪を燃やすことが可能となるし,グリコーゲン蓄積量が増えれば持久能も向上する。なぜ脂肪酸を主なエネルギー源とする持久運動のパフォーマンスがグリコーゲンの増加によって改善されるかというと脂肪酸を燃やすにはグリコーゲンから供給される代謝中間体が必要だからである。マラソン選手がよく30 kmを過ぎたあたりでガス欠状態に陥って走れなくなるのはグリコーゲンが枯渇してしまうからである。脂肪酸を燃やすには糖質が必須なのである。

もう一つ大事なことは筋肉のグリコーゲン量が増えるとグルタミン合成能が向上することである。筋肉はグルタミンの産生臓器であり,グルタミンはグリコーゲンの代謝産物とタンパク質から供給される窒素を使って合成される。グルタミンは糖質から炭素骨格が供給されればこれに窒素を与えてすべての非必須アミノ酸を合成することができるのでリンパ球のような増殖の速い細胞にとって優れた栄養源となる。リンパ球は免疫に関わる重要な細胞であるからグルタミン供給能が改善されると免疫力が高くなり細菌やウイルスによる感染を防ぐことができる。要するに筋肉を鍛えておけば活発に運動ができるだけでなく,免疫力が強くなって病気になりにくい体となるのである。

 

 高齢者は運動をしないでいると体が衰えてしまう。無理な運動をすれば膝などに故障が起きる。故障を起こさない範囲で適度な負荷をかけた運動が望ましい。インターバル速歩はまさに高齢者や体力が弱いと思っている人に適した運動であると思われる。

口臭を消す歯の磨き方

 マスクをしていると口臭が気になるというテレビコマーシャルがあるが,確かにいつもマスクをしていると口臭が気になるものである。口臭の多くは口腔内の細菌の作用によっているが,その原因としては口の中に残った食べ物,歯茎の炎症などで口腔内の菌が異常増殖して菌のバランスに異常が起こったことによっている。ところで以前にテレビを見て知ったことであるがスエーデンでは虫歯や歯周病が少ないということであるが,これは歯を磨いた後に口の中を濯がないことによっているということであった。濯がないことで歯磨剤の成分が口の中に残り虫歯や歯周病が抑えられということである。興味深い話であるが我々が使っている歯磨剤の多くは中性洗剤を含んでいるので磨いたあとに濯がないわけには行かない。しかし,歯磨剤には虫歯を防ぐフッ素や歯茎の炎症を抑える成分などが含まれているので出来るだけ長く歯磨剤を口腔内にとどめておけば効果が出やすいこは確かである。フッ素が歯を形成するアパタイトと反応するにも,歯茎の炎症を抑える薬物が効果を発揮するにも時間が必要である。反応時間が長くなれば効果が出やすくなる。また歯の表面に付着している物質や歯垢などをより効果的に除去するにも歯磨剤に含まれる中性洗剤との接触時間を長くする必要がある。スエーデン人のように濯がずに済ます訳には行かないが口を濯ぐのをしばらく我慢することは難しいことではない。この時間を長くするには各人の生活スタイルによってさまざまな方法があると思われるが,私は朝食後に歯を磨いた後は口を濯がないでトイレに行くことにしている。10~15分くらいは歯磨剤の成分が口の中に残って作用してくれる。この後で再度軽く歯ブラシで磨く。また夕食後に歯を磨いたあとは15~20分くらい待って口を濯げばよい。これを実行してからはマスクをしていても口臭が弱くなったと感じている。個人差があるので保証はできないがフッ素の効果は間違いなく改善されるはずである。

“あの世”について

 仏教では死後の世界にあの世があり,善人は極楽へ悪人は地獄へ行くと言われている。しかし,今の世の中でそのようなことを信じている人がいるとは思えない。普通に考えれば死んだら終わりである。このようなことをいうのは仏教だけかと思えば西洋にも天国,地獄という言葉があるので洋の東西を問わず同じようなことが言われていると思われる。あの世を信じ込むことは人間社会に都合の良い効果をもたらすからこのような言われがあるのかもしれないが,古くより世界中で言い伝えられている裏にはもっと何か他に理由があるのではないかと思い,屁理屈のような話を考えてみた。

 言うまでもなく人は両親からDNAを貰って生まれてくる。父親からの遺伝子と母親からの遺伝子で自分が成り立っている。要するに自分の中には父親が半分と,母親が半分含まれる。言い方を替えれば父親,母親がそれぞれ半分に薄められて自分の中に生きていると言うことができる。もし親が良い行いをして多くの人たちから感謝されるような人生を送っていたならその子は世間から暖かい目で見られ,何か困ったときには廻りから助けられるかもしれない。逆に,親が世間から恨まれるような行いをしていたら子は周りから白い目で見られ,そのせいで困ったときに周りから助けられないどころか足を引っ張られることもあり得る。極端に言えば親の行いによって子の世界は天国にも地獄にもなり得る。こうしてみると親にとってあの世とは子の目を通してみたこの世であるということができる。

 とは言え子の幸せにとって親が良い行いをするだけでは十分ではない。親の行いで子が救われることなど滅多にないことで,子は自分の力で人生を切り開いてゆかなければならない。親の務めは子が自力で人生の荒波を乗り越えられるように教育することである。学校での勉強は学校に任せなければならないが,生きていく上での心構え,行儀作法等々は基本的には親が教えなければならない。しかし,現代の社会では富の配分が偏り,多くの人が子を大学にやりたくてもやれない状態に陥っている。また仕事がきつく子供の教育にまで手が回らなくなっている人もいる。まじめに働く人たちが貧困のために自分の子の教育ができないことは本当に悲しいことである。

 ところで名を成し有り余るほどの財を蓄えた人でも死を迎えた際に自分の子が独り立ちできない状態であったなら死ぬに死にきれないことと思う。生きるために唯一の頼りであった親を失う子の未来は地獄であり,自分の死後,子の行く末がどうなるか容易に想像できる親もまた地獄である。今の世の中で老人は行政から種々の保護を受けて恵まれた状態にあるが,それ以上に病気や事故で自立できない人への支援を充実しなければならないと思う。障害のある子をもつ親が安心して死を迎えられるようにすることは国が最も優先しなければならない課題と思う。

多くの人はこの世に生を受けたからには人の役に立つ仕事を成し遂げて後々まで名を残したいと思うだろうが,そんな大きなことをしなくても自分が死んだ後に子から感謝されるならそれで十分ではないであろうか。私は子育てほど重要な仕事はないと思っている。一生懸命に子を育て次の世にバトンタッチをする。ものすごく大事な仕事である。そのためには安心して子育てができる世の中にしなければならないし,子孫がこの地球上に住めなくなるような温暖化,環境汚染を何としても食い止めなくてはならないと思う。

もう一つ,孔子の言葉に「身体髪膚これを父母に受く。敢えて毀傷せざるは孝の始めなり」という言葉があるが,自分の体は親からもらったものだからというだけでなく,自分の体の中に親がいるからどんなときでも自分の体は大事にしなければならないと思う

グルタミンによる免疫力強化―その3

(1)運動は筋グリコーゲンの蓄積量を増やす

 運動が免疫力強化に役立つ理由は運動で筋肉を鍛えると筋肉のグリコーゲン合成能およびグリコーゲン蓄積量が増加し,その結果グルタミン合成能が改善されるからである。筋肉はごく軽い運動では脂肪を優先して使うが,負荷が強くなるとグリコーゲンを利用する。軽く歩くくらいでは血中乳酸値は上昇しない。これは筋肉では脂肪が優先的にエネルギー源として利用されるからである。しかし,やや速度を上げて運動の強度を上げると脂肪からのエネルギーでは間に合わず,グリコーゲンも使用される。さらに運動強度を上げればグリコーゲンの使用量は増加し,グリコーゲン消費に伴って乳酸が生じる。生じた乳酸の一部は細胞内で燃やされて二酸化炭素と水になるが,大部分は乳酸として血中に放出される。運動を続けている間に蓄えられていたグリコーゲン量が減少すると(50%近くにまで減ると),その減少に比例してグリコーゲンから供給されるエネルギー量も低下し,運動の強度を維持できなくなる。マラソンでいえばガス欠状態である。生体は環境に適応するようにできていて,筋肉を常に働かせてグリコーゲンを消費していると生体はグリコーゲン合成能を上げてこれに対処しようとする。実際に実験的に運動でグリコーゲン合成能が向上することが示されている。ウサギの筋肉に電極を入れて20日間ほど電気刺激を与えて筋収縮を繰り返していると筋肉にグルコースを輸送するタンパク質(GLUT4)や細胞内に取り込まれたグルコースからグリコーゲン合成をする際の最初の段階を触媒する酵素の量が約10倍に増加することが示されている。多分,他の段階でも酵素量の増加が起こると予想される。さらに別の実験でトレーニングによって蓄えられるグリコーゲン量も増加することも示されている。逆に生体は合理的(怠け者?)にできていて使用しないものを作るようなことはしない。例えば久し振りにきつい運動を行うと筋肉痛に襲われるが,これは筋肉を使っていないと乳酸を筋肉から外に輸送するタンパク質,乳酸輸送酵素,の大部分が筋肉細胞膜から消失してしまうために運動時に乳酸が細胞内に蓄積し,これが引き金になって筋肉痛が起こるのである。一旦,乳酸が溜まると必要に迫られて筋肉細胞は乳酸輸送酵素をつくり始めるのでその後は同程度の強度の運動を行っても乳酸が溜まることはなく筋肉痛は起こらなくなると考えられる。グリコーゲン合成に関わる一連の酵素群も運動を怠っていると次第にその量が減少してしまう。

 トレーニングで筋肉を鍛えればグリコーゲン合成系の酵素量の増加に伴いグリコーゲン蓄積量も増加するので,あとは食事から適度なタンパク質が補われればグルタミン合成は維持され免疫力が保たれる。なお,筋肉に蓄えられるグリコーゲン量は一般的には筋肉重量の1%(筋肉湿重量100グラムに対してグリコーゲン乾燥重量で1グラム)と言われているが,トレーニングで鍛えればこれよりはるかに多く蓄えられると思われる。一般人にはアスリートの行うような激しいトレーニングは不要であるが,適度な運動を常に続けることが健康維持には不可欠である。

(2)老人は感染症に罹りやすい

 年を取れば筋肉が衰え,運動量が減るので筋肉のグリコーゲン量は低下する。また一般的に老人は食べる量も少なくなるのでタンパク質摂取量も少なくなる。こうなるとグルタミン合成量も低下し,免疫力が低下する。これが老人の免疫力低下の原因である。今回のコロナ感染で年寄りが重症化しやすいのはグルタミン濃度が低くなりやすいことに因っている。老人はどんな軽い運動でも構わない。できるだけ運動をおこなうことで筋肉を働かせることが大切である。そしてタンパク質を摂るように心がけるべきである。肉にはグルタミンが多く含まれているので筋肉で合成しなくてもかなりの量は供給される。まわりを見ても肉をたくさん食べる老人は元気である。健康の秘訣は適度の運動と,バランスのとれた食事と言われるはこのようなことに因っている。食事でグルタミンを効果的に摂るにはたっぷりの肉をのせたスパゲッティ(パスタは強力粉でできているのでグルテン含量が高い)がお勧めである。また,食事でタンパク質を十分摂れない人は小麦タンパクのグルテンを部分的に分解したグルタミンペプチドで摂るとよい。これは日清製粉の製品でグルタミンを30%という高濃度に含むものである。ただし,10kg(3~4万円)単位でしか購入できないのが玉に瑕である。グルタミンペプチドよりはグルタミン含量は低いが粉末大豆タンパクもお勧めである。塩基性アミノ酸も多く含まれ,1kg入りが2000円くらいで手にいるのでタンパク質摂取量が不足する人には役立つサプリメントと思われる。

(3)問題点

 筋肉を鍛えれば免疫力が強くなると述べてきたが問題がないわけではない。癌の問題である。グルタミンは増殖の速い細胞にとって優れた栄養源であると述べてきたが,癌細胞に対しても優れた栄養源となってしまう。このために筋肉の発達した若い人は免疫力が強いので癌にはなりにくいが,一旦,癌になると癌の進行が速くなってしまう。グルタミンが免疫力強化作用と細胞増殖促進作用の両方を持つ結果である。

グルタミンによる免疫力強化― その2

 激しい運動の後に風邪を引きやすいことは多くの人が経験もしているし,広く知られていることである。なぜだろうか?原因は血中グルタミン濃度が低下するからであるが,なぜ運動でグルタミン濃度が減少するのであろうか。その説明の前に体内でどのようにしてグルタミンが合成されるかを述べて,その後にグルタミンの減少する理由を述べたい。

(1)体内でグルタミンの合成

 グルタミンを生成する主な臓器は筋肉と肝臓であるが,肝臓ではグルタミンが生じても分解されて尿素合成に利用され,合成された尿素は尿中に排泄される。したがって肝臓でグルタミンが生じても肝臓ですべて処理されるので他の組織では利用できず,体内にグルタミンを供給することはできない。このために体内にグルタミンを供給できる臓器は筋肉のみである。アミノ酸がエネルギー源として使われるときには窒素を含んだアミノ基という原子団は取り除かなければならないが(燃えるものは炭素と水素のみである),このアミノ基を受け取ってくれるのがα-ケトグルタル酸である。この化合物はクエン酸回路というATP産生に関わる代謝系の代謝中間体であって,アミノ基を受け取りグルタミン酸となる。アミノ酸のアミノ基が他の化合物に移される反応はアミノ基転移反応といわれるが,体内で起こるすべてのアミノ基転移反応でアミノ基を受け取る化合物はα-ケトグルタル酸である。その結果α-ケトグルタル酸はグルタミン酸となり,グルタミン酸はさらにアンモニアと結合してグルタミンとなるのであるが,このことは体内におけるグルタミンの重要性を示唆している。

 筋肉でアミノ酸代謝に伴ってグルタミンが生じる反応が進行すると筋肉のではα-ケトグルタル酸が消費される。生じたグルタミンは筋肉内で一部はα-ケトグルタル酸に戻されてエネルギー源として利用されるが,多くは血中を経て他の臓器に運ばれて利用されるので,グルタミン合成が進行すると筋肉のクエン酸回路のα-ケトグルタル酸量は次第に減少する。この反応が進行し続けるとα-ケトグルタル酸はやがてなくなってしまう。このような事態に陥るとクエン酸回路は停止してATPを産生も止まり生命の維持もできなくなってしまう。この事態を避けるためにα-ケトグルタル酸が供給されるが,この供給は筋肉のグリコーゲンから行われる。

 要するにグルタミンは筋肉でグリコーゲンから供給される炭素骨格とタンパク質から供給されるアミノ酸の窒素とから合成される。

(2)激しい運動の後でグルタミン濃度が低下する理由

 上で述べたようにグルタミン合成の際に炭素骨格を供給するα-ケトグルタル酸はグリコーゲンから供給されるが,激しい運動で筋肉のグリコーゲンが枯渇するような事態になるとグルタミン合成に利用する炭素骨格は供給できなくなる。特にマラソンのような激しい持久運動ではグリコーゲンは枯渇状態に陥り,グルタミン合成は停止する。その結果グルタミン濃度が低下して免疫力が低下する。

 読者の中には血中グルコースからα-ケトグルタル酸を供給できるのではと思われる人もいるかもしれないが,筋肉は血糖を利用できないのである。筋肉がグルコースを利用するのは摂食後の血中グルコース濃度が高くなってインスリン分泌が上昇しているときにグリコーゲン合成に利用するだけであって,そのほかのことには一切グルコースを使わない。特に運動時に筋肉が直接グルコースを使用したのではたちまちのうちに低血糖状態に陥ってしまう。徒歩でも1分間に4 kcal消費するのに血糖は総量で5g(糖は1gで4kcalの熱量)しかないことから明白である。5分間歩いただけで血糖が0になってしまう。筋肉には運動時に血糖を利用しないでグリコーゲンを利用する仕組みが備わっている。あくまでも血中グルコースは脳のためのものである。

 一般にひどく疲れると風邪など感染症に罹りやすくなると言われるのは筋肉のグリコーゲン量が減少して血中グルタミン濃度が低下して免疫力が低下するからである。逆に日ごろからスポーツで筋肉を鍛えている人は蓄えられているグリコーゲン量も多く,感染症に罹りにくいし,仮に感染しても軽くて済むことが多い。ただ,筋肉を鍛えていても激しいトレーニングでグリコーゲンが枯渇した状態に陥っていると軽症で済むとは限らなくなるので,そのようなときにはアミノ酸のもとになる十分量のタンパク質とグリコーゲンのもとになるごはんを摂ることが大切である。

グルタミンによる免疫力強化

 コロナ感染を防ぐにために免疫力を強くしたいのは今の世の中誰もが思うことである。巷では免疫力にはバランスのとれた食事や十分な睡眠が良いとか,ストレスが悪いとかもっともそうな説がいろいろと言われているが,その根拠を聞かなければ納得することはできない。私は血中グルタミン濃度を上げておくことが免疫力の維持に最も重要と考えている。グルタミンの効果については今までにも本ブログで何回か述べてきたが,重要なことなので再度説明したいと思う。

(1) 激しい運動後の免疫力低下はグルタミンで防がれる

 私が知る限り激しい運動による免疫力の低下をグルタミンが防ぐことを最初に報告したのはE.A.Newsholmeである。彼はイギリスの生化学者で代謝調節の大家であるが,フルマラソン走ることを趣味にしている人でもある。体力を消耗するような激しい運動を行うと感染症(風邪)に罹りやすくなることはよく知られていたが,Newsholmeらはグルタミンがリンパ球やマクロファージなど免疫に関わる細胞にとって重要なエネルギー源となることを見出していたので彼らは激しい運動を行った後のグルタミンによる感染症防止効果を調べた。実験では被験者にマラソンを走らせて,その後にグルタミンを投与した時としないときの感染症にかかる率を観察した(Nutrition 13巻, 738~742頁1997年)。この論文で,マラソンを走るとほぼ50%近くの人が感染症に罹るが,走った後にグルタミン(0.1g/体重1kg)を投与すると感染症に罹る率が20%にまで減少したことが示された。

(2)グルタミンは増殖の速い細胞の優れたエネルギー源である

 体内に細菌あるいはウイルスなどの異物が入ってくるとそれを貪食細胞(白血球の一種)が取り込み分解するとともに,その細胞表面に分解されたタンパク質の断片を抗原として提示する。これがシグナルとなってリンパ球が増殖して体内に入ってきたウイルスや細菌をやっつけるために働く。そのためには多量のエネルギー(ATP)を必要とする。外敵が侵入した時にはリンパ球は増殖しなければならない。細胞が増殖するにはタンパク質合成の材料,DNA,RNA合成の材料,合成のためのエネルギーが供給されなければならないが,グルタミンはそれらの目的のためには極めて都合の良い物質である。グルタミンからはグルコースがあれば非必須アミノ酸のすべても,DNA,RNAの塩基もすべて合成可能である。

 ATP産生に関して,クエン酸回路と呼ばれる代謝系はATP産生に関わり,糖,アミノ酸,脂肪の酸化に必須の代謝系である。クエン酸回路はミトコンドリアの中に存在し,9種の代謝中間体が一つの回路を形成する代謝系である。糖やアミノ酸,脂肪の代謝物が回路に送り込まれるとそれを脱水素反応(一種の酸化反応)によって代謝して二酸化炭素と還元性物質を生じる。生じた還元性物質は電子伝達系と呼ばれる代謝系で酸素によって酸化されて,この際に放出されるエネルギーを利用して多量のATPが産生される。

 グルタミンは細胞内に取り込まれやすく,細胞内に入ると2段階の反応でクエン酸回路の代謝中間体であるα-ケトグルタル酸となる。クエン酸回路はその名の通り回路を形成しているので,一つの代謝中間体の量が増えれば順次他の代謝中間体の量も増加する。この結果,丁度,川の水量が増えて川の流れが太くなる様にクエン酸回路の代謝の流れが太くなり,糖質,脂肪を酸化する速度が大きくなって ATP産生が増加する。多量のATPが供給されることで白血球が活性化されて侵入してきたウイルスやバクテリアに打ち勝つことができると考えられる。このことがグルタミンが白血球にとって優れたエネルギー源となり,免疫力を上げる最大の理由である。

 Newsholmeらの実験ではグルタミンとして遊離アミノ酸の形でグルタミンを使ったが,遊離アミノ酸のグルタミンは酸で容易に分解してしまう。実験で確かめると胃酸と同程度の酸性水溶液中ではたちどころに約50%が分解してしまう。残りの50%はゆっくりと分解するというおかしな現象が観察されるが,このことはグルタミンの酸性下での電離状態と分解する分子型によって説明されるが,詳しいことはここでは省略する。グルタミンが他のアミノ酸と結合しているタンパク質あるいはペプチドの形であれば安定で分解しないが,タンパク質を酵素で部分的に分解したペプチドの方が消化,吸収が速いので効果が得られやすい。以前はグルタミンペプチドなる商品が容易に手に入ったのであるが,近年は非常に高価なものしか出回っていない。グルタミンを摂るには強力粉でできた食品を食べることが最善のようである。

 激しい運動などで疲れると免疫力が低下することはグルタミン濃度の低下に因っているのであるが,なぜグルタミン濃度が低下するかは次回で述べる予定にしている。

アクテムラでコロナウイルスは怖くない

 5月10日に放送されたコロナウイルスに関する番組(NHKスペシャル)を見て2つほどが特に印象に残った。一つはBCG接種がコロナによる死亡数を減少させている可能性である。BCG接種を行っている国(台湾,日本,韓国,イラン)と行っていない国(アメリカ,イギリス,イタリア,スペイン)の人口100万人当りの死亡数を比べてみると台湾,日本,韓国では1桁台,イランでは75であるのに対してBCG接種を行っていない国では200~500くらいであった。この結果はBCGに免疫力を高めてウイルス感染を抑える作用があるのではという期待を持たせるのであるが,残念なことにこれに反する結果も得られていた。イスラエルでは1980年代にそれまで全国民にしていたBCG接種を止めたのであるが,今回のコロナウイルス感染でBCG接種を受けていた年代層と受けていない年代層で死亡率に差が無かったということである。それならばBCG接種を行っている国と行っていない国になぜ差が出たのであろうか。いくつかの生活習慣が影響していると思うが,この結果と矛盾しない習慣は家の中で靴を脱ぐかどうかであると思う。台湾,日本,韓国,イランでは家の中で靴を脱ぐ習慣があるが,アメリカやヨーロッパ諸国ではその習慣がない。靴で歩いた床をはだしで歩いてベッドに入ることもある。このような習慣のために部屋の中に雑菌が多くコロナウイルスにより肺炎が起こった時に悪化する可能性もあるのではないだろうか。

 もう一つ印象に残ったことは大阪はびきの医療センターで行われたリュウマチの薬アクテムラのコロナに対する臨床実験である。アクテムラは免疫系の情報伝達タンパク質であるインターロイキン6(IL6)の受容体に結合してIL6の作用を抑える薬である。IL6の作用が強くなりすぎると免疫反応が強くなりすぎて炎症が引き起こされる。コロナウイルスによる急激な肺炎は自己免疫疾患と同じメカニズムで起こる炎症の可能性がある。アクテムラを13人の重症患者に投与したところ9名が回復して既に退院したということであった。患者の話ではアクテムラ投与を始めて1,2日で楽になり3日目にはラジオ体操やスクワットができるようになったということである。素晴らしい効果である。1日も早くアクテムラをコロナウイルスに対する薬として認めてほしいものである。

 それにしても今回のコロナウイルス感染に対する安倍政権の対処はあまりにもひどすぎる。せめてコロナ専門の病院を指定することを地方自治体に指導すべきであった。それをしなかったために急に重症化した患者が救急車で病院を探し回っている間に助からなくなってしまったケースも起こった。やったことと言えば大幅に時期を逸して10万円を配りつつあることと,巷にマスクが出回ったころに役に立たないような小さくて汚いマスクを配っていることくらい。バラマキならばどんな無能な政治家にもできることである。とくにマスクの件では500億円近くも使うのであるから,余程慎重に業者と製品を選ばなければならないのに,全く吟味することなく決定したにちがいない。安倍政権は国民の税金を使うことを屁とも思っていないのではないか。彼らは国民の税金は票稼ぎのために使うものと思っているのではと勘繰りたくなる。

 もう一つ,政府にのぞみたいことはもうすぐ台風の季節がやってくるが,対策を立てないと避難所で感染が拡がってしまう事態が生じる。今から計画を立てて準備しておかなくてはならない。無能政権に期待するのが間違っているだろうか。