グルタミンによる免疫力強化―その3

(1)運動は筋グリコーゲンの蓄積量を増やす

 運動が免疫力強化に役立つ理由は運動で筋肉を鍛えると筋肉のグリコーゲン合成能およびグリコーゲン蓄積量が増加し,その結果グルタミン合成能が改善されるからである。筋肉はごく軽い運動では脂肪を優先して使うが,負荷が強くなるとグリコーゲンを利用する。軽く歩くくらいでは血中乳酸値は上昇しない。これは筋肉では脂肪が優先的にエネルギー源として利用されるからである。しかし,やや速度を上げて運動の強度を上げると脂肪からのエネルギーでは間に合わず,グリコーゲンも使用される。さらに運動強度を上げればグリコーゲンの使用量は増加し,グリコーゲン消費に伴って乳酸が生じる。生じた乳酸の一部は細胞内で燃やされて二酸化炭素と水になるが,大部分は乳酸として血中に放出される。運動を続けている間に蓄えられていたグリコーゲン量が減少すると(50%近くにまで減ると),その減少に比例してグリコーゲンから供給されるエネルギー量も低下し,運動の強度を維持できなくなる。マラソンでいえばガス欠状態である。生体は環境に適応するようにできていて,筋肉を常に働かせてグリコーゲンを消費していると生体はグリコーゲン合成能を上げてこれに対処しようとする。実際に実験的に運動でグリコーゲン合成能が向上することが示されている。ウサギの筋肉に電極を入れて20日間ほど電気刺激を与えて筋収縮を繰り返していると筋肉にグルコースを輸送するタンパク質(GLUT4)や細胞内に取り込まれたグルコースからグリコーゲン合成をする際の最初の段階を触媒する酵素の量が約10倍に増加することが示されている。多分,他の段階でも酵素量の増加が起こると予想される。さらに別の実験でトレーニングによって蓄えられるグリコーゲン量も増加することも示されている。逆に生体は合理的(怠け者?)にできていて使用しないものを作るようなことはしない。例えば久し振りにきつい運動を行うと筋肉痛に襲われるが,これは筋肉を使っていないと乳酸を筋肉から外に輸送するタンパク質,乳酸輸送酵素,の大部分が筋肉細胞膜から消失してしまうために運動時に乳酸が細胞内に蓄積し,これが引き金になって筋肉痛が起こるのである。一旦,乳酸が溜まると必要に迫られて筋肉細胞は乳酸輸送酵素をつくり始めるのでその後は同程度の強度の運動を行っても乳酸が溜まることはなく筋肉痛は起こらなくなると考えられる。グリコーゲン合成に関わる一連の酵素群も運動を怠っていると次第にその量が減少してしまう。

 トレーニングで筋肉を鍛えればグリコーゲン合成系の酵素量の増加に伴いグリコーゲン蓄積量も増加するので,あとは食事から適度なタンパク質が補われればグルタミン合成は維持され免疫力が保たれる。なお,筋肉に蓄えられるグリコーゲン量は一般的には筋肉重量の1%(筋肉湿重量100グラムに対してグリコーゲン乾燥重量で1グラム)と言われているが,トレーニングで鍛えればこれよりはるかに多く蓄えられると思われる。一般人にはアスリートの行うような激しいトレーニングは不要であるが,適度な運動を常に続けることが健康維持には不可欠である。

(2)老人は感染症に罹りやすい

 年を取れば筋肉が衰え,運動量が減るので筋肉のグリコーゲン量は低下する。また一般的に老人は食べる量も少なくなるのでタンパク質摂取量も少なくなる。こうなるとグルタミン合成量も低下し,免疫力が低下する。これが老人の免疫力低下の原因である。今回のコロナ感染で年寄りが重症化しやすいのはグルタミン濃度が低くなりやすいことに因っている。老人はどんな軽い運動でも構わない。できるだけ運動をおこなうことで筋肉を働かせることが大切である。そしてタンパク質を摂るように心がけるべきである。肉にはグルタミンが多く含まれているので筋肉で合成しなくてもかなりの量は供給される。まわりを見ても肉をたくさん食べる老人は元気である。健康の秘訣は適度の運動と,バランスのとれた食事と言われるはこのようなことに因っている。食事でグルタミンを効果的に摂るにはたっぷりの肉をのせたスパゲッティ(パスタは強力粉でできているのでグルテン含量が高い)がお勧めである。また,食事でタンパク質を十分摂れない人は小麦タンパクのグルテンを部分的に分解したグルタミンペプチドで摂るとよい。これは日清製粉の製品でグルタミンを30%という高濃度に含むものである。ただし,10kg(3~4万円)単位でしか購入できないのが玉に瑕である。グルタミンペプチドよりはグルタミン含量は低いが粉末大豆タンパクもお勧めである。塩基性アミノ酸も多く含まれ,1kg入りが2000円くらいで手にいるのでタンパク質摂取量が不足する人には役立つサプリメントと思われる。

(3)問題点

 筋肉を鍛えれば免疫力が強くなると述べてきたが問題がないわけではない。癌の問題である。グルタミンは増殖の速い細胞にとって優れた栄養源であると述べてきたが,癌細胞に対しても優れた栄養源となってしまう。このために筋肉の発達した若い人は免疫力が強いので癌にはなりにくいが,一旦,癌になると癌の進行が速くなってしまう。グルタミンが免疫力強化作用と細胞増殖促進作用の両方を持つ結果である。