新型コロナウイルス肺炎の効果的な防ぎ方

 武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎が世界中に広まりつつある。インフルエンザの場合にも当てはまるがウイルスによる病気には感染する人としない人がいる。どのような人が感染しやすいかと言えば,老人,過労状態の人,栄養不足の人などである。共通するのは体力の弱っている人である。ここで問題となるのはこの体力とは何かである。私は体力とは血中グルタミン濃度であると考えている。細菌やウイルスが体内に入ると白血球がこれらをやっつけようとするが,白血球の中でも細菌に対して戦うのが顆粒球のマクロファージであり,ウイルスに対してはリンパ球である。細菌やウイルスが体内に入るとこれらの白血球が素早く細胞分裂して増殖することで生体は対処しようとする。細胞が素早く増殖するためにはエネルギー源となるATPが十分に供給されるだけでなく,細胞を構成するタンパク質や核酸(DNA・RNA)を作るのに必要な材料が十分に供給されなければならない。これに適しているものがグルタミンである。我々が摂取した食物中のグルタミンは2段階の反応の後にクエン酸回路と呼ばれる代謝回路と電子伝達系で代謝されて容易にATPを供給する。さらにグルタミンは糖質(グルコース)から供給される炭素骨格に窒素を供給して必須アミノ酸以外のアミノ酸の合成を可能にする。グルコースはごはんやパン,うどんなどから供給されるので通常の食事で不足することはまず起こらない。DNA,RNAなどの核酸の塩基はグルタミンとグルコースがあればすべて体内で合成可能である。このようにグルタミンは白血球のような増殖の速い細胞にとってきわめて優れた栄養源となり得るので,グルタミン濃度が保たれておれば免疫力が維持されて感染症に罹らないで済むのである。茶碗に一杯程度のご飯を食べれば不足しやすいものはタンパク質(肉)である。したがって,普通の食事にやや多くのタンパク質を摂れば血中グルタミン濃度を保つことが可能である。

 生体を構成するアミノ酸は20種類が存在するが,その中でもグルタミンは大部分のタンパク質中に最も多く含まれるアミノ酸である。すべてのアミノ酸はヒトの体内でエネルギー源として使われる際には酸化されて二酸化炭素と水を生じるが,このときアミノ酸に含まれる窒素は余分になる。この窒素はグルコースから生成したα-ケトグルタル酸に移されてグルタミン酸を生じ,生じたグルタミン酸はさらにアンモニアアミノ酸に由来する窒素から生じる)を受け取りグルタミンとなる。すなわちすべてのアミノ酸がエネルギー源として利用されるとき,その窒素を使ってグルタミンが生じる。すべてのアミノ酸が燃えた時にその窒素からグルタミンが合成されることは生体におけるグルタミンの重要性を示していると思えてならない。このようにごはんと肉を食べれば肉に含まれるグルタミンとその他のアミノ酸代謝で生じるグルタミンによって体内のグルタミン濃度が上昇する。なお,糖質源としてはごはんも良いが,グルタミン濃度を上げるにはグルタミン含量の高い強力粉でできた食品(スパゲッティ,パスタ,うどん)の方が効果的である。

 ここで認識しておかなければならないことはα-ケトグルタル酸とアミノ酸からのグルタミン生成は肝臓と筋肉で起こるが,肝臓で生成したグルタミンの窒素は尿素合成に使われてしまう(尿素は尿中に排泄される)ので,血中グルタミン濃度の上昇には役立たないこと,筋肉で合成されたグルタミンのみが血中グルタミン濃度の上昇に貢献することである。筋肉でグルタミンが合成される際のα-ケトグルタル酸は筋肉に蓄えられたグリコーゲンから供給される。したがって激しい運動で筋肉のグリコーゲンが枯渇してしまうと供給できるα-ケトグルタル酸量が低下してグルタミン合成が進行しなくなる。こうしてグルタミン濃度が低下すれば感染症に罹りやすくなる。激しい運動の後やひどく疲れた時に感染症に罹りやすいのはこのためである。実際に激しい運動の後に感染症に罹りやすくなること,グルタミン投与により感染症に罹る割合が大きく低下することが実験で示されている。

 筋肉に蓄えられるグリコーゲン量は運動で筋肉を鍛えることによって大幅に増加し,筋肉を使わないでいると筋肉は委縮し,グリコーゲンを蓄える能力はどんどん減少する。生体はなまけ者で使わないものを維持しようとはしないからである。このために普段から運動で筋肉を鍛えておけば蓄えるグリコーゲン量も増加する。この状態でタンパク質を摂取すればグルタミン合成も進行し,感染症に罹る可能性も低くなる。逆に,寝たきり老人では筋肉が衰え,蓄えるグリコーゲン量も低下する。そうなればグルタミン合成能も低下し感染症に罹りやすくなる。体力の衰えた寝たきり老人が院内感染に罹りやすいのはこのためである。筋肉が衰えた人,運動や過労で疲れた人が感染症を防ぐには肉を多く食べることと最低限茶碗に一杯程度のごはんを食べることである。健康を維持するためには昔から適度な運動とバランスのとれた食事が大切と言われるのはこのためである。運動によって筋肉を鍛え,肉を十分に食べる。これが健康を維持する秘訣である。よく肉食が血中コレステロール値を上げるという人がいるが,肉に含まれるコレステロールは100グラム当りせいぜい60mg程度である。200グラム食べても120mg である。コレステロールは1日に約1.5グラムが胆汁酸として糞便中に排泄されるので,摂取するコレステロールと体内で糖質から合成されるコレステロールがこの値以下であれば血中コレステロール値が上昇することはない。コレステロール値を上げる最大の原因は過剰な炭水化物である。健康でありたいと思うなら甘いものを避け大いに肉を食べるべきである。

 かく言う私は肉が嫌いであまり食べたくはない。親子の情のある動物の肉はできるだけ食べないことにしている。そんな人はどうすれば良いか。小麦粉に含まれるグルテンというタンパク質にはその名の通りグルタミンが多く含まれていて30%がグルタミンである。このグルテン酵素で部分的に加水分解して消化吸収しやすくした「グルタミンペプチド」(日清製粉製)なるものが市販されている。以前は1kg あるいは2kg単位でも売られていたが,現在はネットで調べると10㎏単位でしか手に入らないようである。5名くらいで共同購入すれば良いが,保存には湿気を避けるよう注意が必要である。私は風邪を引いたと感じた時にはグルタミンペプチド粉末約10グラムを湯に溶かして飲むことにしている。大抵の場合は風邪をひかずに済む。今回の新型コロナウイルス感染の予防にも役立つはずである。なお,間違ってもアミノ酸のグルタミンを購入してはいけない。グルタミンは遊離のアミノ酸の形では酸性条件下では不安定で,胃の中で胃酸により大部分が分解して有毒なアンモニアを生じる。ペプチドあるいはタンパク質の形で摂らなければならない。

 今回の新型コロナウイルスに対して特効薬はないが,肉食あるいはグルタミンペプチドで血中グルタミン濃度を上げておくことで効果的に感染を防ぐことが可能であると思っている。

追加;グルタミンペプチドはマッスルプロダクションから1㎏単位で購入可能である。「マッスルプロダクション グルタミンペプチド」で入力してネットで調べてください。