グルタミンによる免疫力強化

 コロナ感染を防ぐにために免疫力を強くしたいのは今の世の中誰もが思うことである。巷では免疫力にはバランスのとれた食事や十分な睡眠が良いとか,ストレスが悪いとかもっともそうな説がいろいろと言われているが,その根拠を聞かなければ納得することはできない。私は血中グルタミン濃度を上げておくことが免疫力の維持に最も重要と考えている。グルタミンの効果については今までにも本ブログで何回か述べてきたが,重要なことなので再度説明したいと思う。

(1) 激しい運動後の免疫力低下はグルタミンで防がれる

 私が知る限り激しい運動による免疫力の低下をグルタミンが防ぐことを最初に報告したのはE.A.Newsholmeである。彼はイギリスの生化学者で代謝調節の大家であるが,フルマラソン走ることを趣味にしている人でもある。体力を消耗するような激しい運動を行うと感染症(風邪)に罹りやすくなることはよく知られていたが,Newsholmeらはグルタミンがリンパ球やマクロファージなど免疫に関わる細胞にとって重要なエネルギー源となることを見出していたので彼らは激しい運動を行った後のグルタミンによる感染症防止効果を調べた。実験では被験者にマラソンを走らせて,その後にグルタミンを投与した時としないときの感染症にかかる率を観察した(Nutrition 13巻, 738~742頁1997年)。この論文で,マラソンを走るとほぼ50%近くの人が感染症に罹るが,走った後にグルタミン(0.1g/体重1kg)を投与すると感染症に罹る率が20%にまで減少したことが示された。

(2)グルタミンは増殖の速い細胞の優れたエネルギー源である

 体内に細菌あるいはウイルスなどの異物が入ってくるとそれを貪食細胞(白血球の一種)が取り込み分解するとともに,その細胞表面に分解されたタンパク質の断片を抗原として提示する。これがシグナルとなってリンパ球が増殖して体内に入ってきたウイルスや細菌をやっつけるために働く。そのためには多量のエネルギー(ATP)を必要とする。外敵が侵入した時にはリンパ球は増殖しなければならない。細胞が増殖するにはタンパク質合成の材料,DNA,RNA合成の材料,合成のためのエネルギーが供給されなければならないが,グルタミンはそれらの目的のためには極めて都合の良い物質である。グルタミンからはグルコースがあれば非必須アミノ酸のすべても,DNA,RNAの塩基もすべて合成可能である。

 ATP産生に関して,クエン酸回路と呼ばれる代謝系はATP産生に関わり,糖,アミノ酸,脂肪の酸化に必須の代謝系である。クエン酸回路はミトコンドリアの中に存在し,9種の代謝中間体が一つの回路を形成する代謝系である。糖やアミノ酸,脂肪の代謝物が回路に送り込まれるとそれを脱水素反応(一種の酸化反応)によって代謝して二酸化炭素と還元性物質を生じる。生じた還元性物質は電子伝達系と呼ばれる代謝系で酸素によって酸化されて,この際に放出されるエネルギーを利用して多量のATPが産生される。

 グルタミンは細胞内に取り込まれやすく,細胞内に入ると2段階の反応でクエン酸回路の代謝中間体であるα-ケトグルタル酸となる。クエン酸回路はその名の通り回路を形成しているので,一つの代謝中間体の量が増えれば順次他の代謝中間体の量も増加する。この結果,丁度,川の水量が増えて川の流れが太くなる様にクエン酸回路の代謝の流れが太くなり,糖質,脂肪を酸化する速度が大きくなって ATP産生が増加する。多量のATPが供給されることで白血球が活性化されて侵入してきたウイルスやバクテリアに打ち勝つことができると考えられる。このことがグルタミンが白血球にとって優れたエネルギー源となり,免疫力を上げる最大の理由である。

 Newsholmeらの実験ではグルタミンとして遊離アミノ酸の形でグルタミンを使ったが,遊離アミノ酸のグルタミンは酸で容易に分解してしまう。実験で確かめると胃酸と同程度の酸性水溶液中ではたちどころに約50%が分解してしまう。残りの50%はゆっくりと分解するというおかしな現象が観察されるが,このことはグルタミンの酸性下での電離状態と分解する分子型によって説明されるが,詳しいことはここでは省略する。グルタミンが他のアミノ酸と結合しているタンパク質あるいはペプチドの形であれば安定で分解しないが,タンパク質を酵素で部分的に分解したペプチドの方が消化,吸収が速いので効果が得られやすい。以前はグルタミンペプチドなる商品が容易に手に入ったのであるが,近年は非常に高価なものしか出回っていない。グルタミンを摂るには強力粉でできた食品を食べることが最善のようである。

 激しい運動などで疲れると免疫力が低下することはグルタミン濃度の低下に因っているのであるが,なぜグルタミン濃度が低下するかは次回で述べる予定にしている。