肥満を防ぐ:毎回の食事で必要とされる糖質の量

 肝臓のグリコーゲンは肝臓重量の5%と言われている。肝臓を1.5 kg とするとグリコーゲン量は75g(乾燥重量)である。筋肉のグリコーゲンは筋肉重量の1%と言われているので体重60kg の人の筋肉量を30 kg とするとグリコーゲン量は乾燥重量で300 g となる。ただし,肝臓,筋肉のグリコーゲンは夫々空腹時,疲労困憊時にともに50%程度にまで減少すると分解速度が低下して効果的な機能を果しえなくなるのでそれ以上は減少し難い。通常は50%までしか減少しないと考えてよいのでその合成に使われる最大のグルコース量は肝臓で約40 g,筋肉で150 g程度である。

 肝臓のグリコーゲンは一度の食事でほぼ回復するが,筋肉のグリコーゲンは量が多いので一度では無理である。また,肝臓と同じように急速に筋肉のグリコーゲン合成が進行すれば摂取したグルコースをすべて筋肉に回しても不足するし,無理に合成を続ければ低血糖状態に陥る。この事態を避けるために筋肉ではグリコーゲン合成は肝臓よりも遅い速度で進行する。筋肉では筋肉細胞中へのグルコースの輸送の段階とグルコース代謝の最初の段階の反応を触媒する酵素の性質が肝臓と異なっているためである。このため激しい運動のあと筋肉疲労が回復するには(グリコーゲンレベルがもとに戻るには)数回の食事が必要である。激しい運動の後の回復には数日の休養が必要と思って間違いない。いずれにしても食事後には肝臓と筋肉でグリコーゲン合成が他に優先して進行する。

 なお,「糖質制限」が健康に良いという記事を時々目にするが,グリコーゲン合成のためにはグルコースが最善である。タンパク質からでもグルコースが合成されてグリコーゲンが合成されないわけではないが,タンパク質からの合成は肝臓にも負担がかかる上に,タンパク質が十分に供給されなければ筋肉を分解してアミノ酸を供給しなければならない。過剰な糖質摂取は肥満などの生活習慣病を引き起こすもとになるが,過度の制限は避けなければならない。糖質必要量の目安としては1日に2000Kcalを必要とする人では絶対的にグルコースを必要とする組織である脳,赤血球が使う分(135g)と筋肉が使う分(筋肉で600 Kcalが消費されその半分が糖質から供給されると仮定して 75 g)を合わせて約210 g(乾燥重量のグルコースとして)である。茶碗一杯のご飯の乾燥重量を50 g とすれば4杯分である。他の食品にも糖質は含まれるから最低限毎回の食事には茶碗一杯分のご飯,あるいはこれに相当する量の糖質は摂るべきである。