持久運動のエネルギー源

  ヒトは安静時では1 kcal/分のエネルギーを消費する。また,おおまかに歩行では5 kcal/分,マラソンでは一流ランナーの場合は20 kcal/分のエネルギーを消費すると言われているが,一般の人がマラソンを走るときは多分一流ランナーの半分もエネルギーを消費することはできないので10kcal/分程度とみてよいと思われる。

 

 運動時に利用する体内のエネルギー源は主に糖質と脂肪であり,具体的には脂肪組織に蓄えられている脂肪と筋肉のグリコーゲンである。このほかに肝臓のグリコーゲン,血中グルコースもエネルギー源にはなりうるが,肝臓グリコーゲンは血中グルコースを補給するためのものであり,運動時には筋肉では殆ど消費されない。表に体内のエネルギー源となるものの量を示す。

 体重60 kg,体脂肪率15%のヒトでは脂肪の量は9 kg となるので,そのエネルギー量は81000 kcalとなる。マラソンを走るのに必要なエネルギー量を2600 kcal(20kcal/分で2時間10分)とすると,この量はマラソンを30 回も走れる量である。フルマラソンを脂肪のエネルギーだけで走ったとしてもわずか3 %しか脂肪は減少しない。脂肪を減らすことが如何に難しいことか理解できると思う。筋肉のグリコーゲン量はトレーニングをした人としていない人では異なるが,大体筋肉の1% 程度と言われている。平均的な人(体重60 kg, 筋肉量 30 kg)では筋肉グリコーゲンとして蓄えられているエネルギーは1200 kcal となるが,グリコーゲン量が50%以下になると運動を続けることが困難となるので,実際に使用できる分は600~700 kcal程度である。さらに走るときには全身の筋肉を使うわけではなく,主に下肢の筋肉をつかうのでグリコーゲンから供給される量は最大で300kcal程度である。マラソンを走りきるには少なすぎる。大部分は脂肪から生じる脂肪酸から供給されなければならない。このように持久運動の主なエネルギー源は脂肪酸である。

 ヒトが脂肪として蓄えているエネルギー量は無尽蔵と言っていいくらいの量であるが,長距離を走っているとエネルギー枯渇状態に陥って足が動かなくなることがある。マラソンで速く走ろうと思えば脂肪酸からのみのATP供給ではスピードを上げて走ることはできないのでグリコーゲン分解と解糖系での代謝でもATPを供給しなければならない。グリコーゲン量には限りがあるので使っていればいずれ枯渇する。グリコーゲンが枯渇するとそのスピードを維持できなくなってしまう。逆にスピードを上げなければグリコーゲンをセーブできるので長く運動を続けることができる。しかし,スピードを上げなくても(グリコーゲンからのATP供給を必要としない負荷のスピードでもでも)いつまでも走り続けることができるわけではない。ウオーキングでさえ長時間続けていると足が棒のようになってしまう。これは脂肪酸を燃やすにはグリコーゲンが必要であり,さらに乳酸を生じない軽い運動(解糖系からのATP供給を必要としない運動)でも筋肉では少しずつではあるがグリコーゲンが消費されるからである。このために軽い運動といえどもエネルギー補給なしにいつまでも続けることはできないのである。

 なぜ筋肉は解糖系からのATP供給が必要ない運動でもグリコーゲンが消費されるか,なぜグリコーゲンが無いと脂肪酸が燃えないかは次回で述べたいと思う。

 

f:id:taisha1:20180318211642p:plain