運動時のエネルギー供給:白筋と赤筋

 骨格筋には赤色の強い筋肉と白またはピンク色の筋肉の2種類がある。心筋などは濃い赤色であるが,鶏肉や豚肉はピンク色である。この違いはミトコンドリアの含量による。持久運動に優れた筋肉はミトコンドリアを多く含み,瞬発力に優れた筋肉はミトコンドリアが少ない。ミトコンドリアの多い筋肉では酸素の消費が多く,血液中をヘモグロビンに結合して運ばれてきた酸素を受け取るミオグロビン(赤色のタンパク質)が細胞内に多く含まれるために赤色を示す(赤筋)。ミトコンドリアの少ない筋肉ではミオグロビンが少ないので赤色は薄くなる(白筋)。酸素はヘモグロビンに結合して血中を運ばれる。細胞内に存在するミオグロビンはヘモグロビンに良く似たタンパク質で酸素を結合し,さらに酸素に対する親和性がヘモグロビンより強いのでヘモグロビンから酸素を受け取ることができる。この酸素はミトコンドリアの電子伝達系の最終段階で還元されて水を生じるが,この反応を行う酵素はミオグロビンよりさらに酸素に対する親和性が強いので,酸素は電子伝達系でH2Oを生じるとともにATPを生成する。

赤筋はエネルギー源となる化合物を完全に酸化してH2OとCO2を生じるとともに多量のATPを生成するが,筋肉の収縮速度は遅い。そのために遅筋とも呼ばれる。生じるパワーは強くはないが持久力に優れた筋肉である。

白筋はグリコーゲンをエネルギー源として乳酸を生じる際にATPを生成する。この時の反応は酸素を必要としないので嫌気的解糖とも呼ばれる。この反応系ではグルコース1分子から生成するATPは完全酸化の場合のおよそ20分の1であるが,短時間に赤筋に比べてはるかに多量のATPを生成することができるので,白筋はパワーが強く収縮速度が速い特徴を持っている。しかし持久運動には不向きの筋肉である。

赤筋ではなぜ強いパワーが出せないかはエネルギー源となる化合物(脂肪酸から生じるアセチル-CoA)の供給と代謝の速度,あるいは酸素の供給の速度で制限されるためである。脂肪酸は細胞質中で分解されたのちアセチル-CoAに代謝されてミトコンドリアに運ばれ,さらにクエン酸回路で代謝されなければならないし,酸素は血中から細胞内へ,さらにミトコンドリア内へ輸送されなければならないから時間を要する。このため生成するATP量は多いがその生成速度は遅いので瞬発力を必要とする運動には不向きである。

一方,白筋はグリコーゲンを主なエネルギー源とし,このものの分解で生じたグルコースのリン酸化合物を解糖系で代謝してATPを生成する。このとき乳酸が生じるが乳酸は血中を経て肝臓に運ばれて主にグルコース合成に利用される。解糖系で生じるATP量はグルコース1分子から2分子しか生じず,グルコースを完全に酸化した場合のおよそ20分の1であるが,この代謝系の酵素は白筋では多量に存在し反応が早く進むので単位時間内に多量のATPを供給することができる。したがって白筋は短距離走や相撲,重量挙げといった瞬発力を必要とする競技に向いている筋肉である。しかし,グリコーゲンの蓄積量には限度があり,しかも負荷の強い運動であれば短時間のうちに減少する。減少すればATP供給もできなくなるので持久運動には不向きである。

生体は環境に適応する能力を持っている。常に筋肉のATPが枯渇するようなトレーニングを行っているとミトコンドリア量が増えて赤筋が増えて持久能が向上するし,強い負荷をかけるトレーニングをしていれば筋肉繊維が太くなりパワーが改善される。筋肉を働かせればATPが分解してADPが生じる。生じたADPはたちまちのうちにATPに戻されるが,負荷が強くなったり,燃料の供給が間に合わなくなるとATPへの転換が遅れてADP濃度が上昇する。そうなると2分子のADPからATPとAMPが生じる反応が起る。こうして生じたAMPが引き金になって筋肉量が増える,あるいはミトコンドリア量が増えることで運動能の向上がもたらされる。