トレーニング以外で持久運動能を向上させる方法-グルタミンペプチドサプリ

 持久運動のパフォーマンスを向上させるために筋肉中のグリコーゲン蓄積量を増加させようとしてアスリートはトレーニングに励んでいるが,サプリメントで持久力が改善できれば有難いことである。グリコーゲンが枯渇すればクエン酸サイクルの代謝中間体を供給できず,その結果脂肪が燃えなくなって運動の持続ができなくなるのであるから,クエン酸サイクルの代謝中間体をサプリメントから補給できれば持久運動能を向上させることができると考えられる。しかし,筋肉細胞では肝細胞と違ってクエン酸,リンゴ酸などのクエン酸サイクル代謝中間体は細胞膜を透過しないのでその補給は簡単ではない。生体が利用できる数ある低分子物質のなかで筋肉に直接に取り込まれてクエン酸サイクルの代謝中間体を供給しうる化合物はグルコースアミノ酸などに限られる。その中ではグルタミンは筋肉細胞にもっとも取り込まれやすく,エネルギー源として利用されることが報告されている。前述したように,筋肉はグルタミンの産生臓器であるが,血中のグルタミン濃度を上げれば逆に細胞内にグルタミンが取り込まれて代謝される。グルタミンは図に示すように筋肉で酵素の作用でグルタミン酸アンモニアとなった後に,グルタミン酸からα-ケトグルタル酸が生じてクエン酸サイクルの代謝中間体として供給される。α-ケトグルタル酸が供給されればグリコーゲンがなくなっても脂肪は燃えてエネルギー源となりうる。しかし,このような反応が起こるならば生じた有害なアンモニアはどのようにして血中を運ばれるかという問題が生じる。従来グルタミンは生体内で生じたアンモニアを安全に運ぶのがその役割と考えられていたが,運動時に血中アンモニア濃度が大幅に上昇することも報告されている。このことはアンモニアのままでも一部は血中を運ばれていることを示している。

このようにグルタミンは筋肉細胞に取り込まれてクエン酸サイクルの代謝中間体を供給しうるが,グルタミンは酸で分解しやすい性質を持っている。以前にも述べたように(本ブログ2017-11-06 「グルタミンのサプリメント」参照)胃で速やかに分解してピロリドンカルボン酸になってしまう。酸による分解を防ぐには遊離のアミノ酸としてではなく,ペプチドで摂取する必要がある。手に入れやすい市販品としては日清製粉製のグルタミンペプチドがある。これは小麦粉のタンパク質グルテン酵素的に部分分解して消化吸収されやすくしたものである。10グラムほどの粉末をコップ一杯の湯に溶かして飲めばある程度の効果が期待できる。グルタミンペプチドは吸湿性なので開封後は湿気を避けて保存しなければならない。

なお,グルタミンはこの他に以前にも述べたように免疫系の活性化作用を持っているので感染症を防ぐ上で効果的である。関心がある方は2017年10月頃の本ブログ「肉を多く食べる人は元気である」を見て頂きたい。

もう一つ,脂肪酸の利用を増やすことができればグリコーゲンの消費は節約できる。空腹時には血中脂肪酸濃度が上昇しているので(本ブログ2017年12月25日「血中脂肪酸濃度は摂食後に低下し空腹時に上昇する」参照)空腹時に運動を行えば脂肪酸をより多く燃やすことが可能である。逆に,血中グルコース濃度が上昇しているときにはインスリンが分泌されて脂肪組織からの脂肪酸放出が抑えられるので血中脂肪酸濃度は低下する。このために運動時に筋肉での脂肪酸の利用は減少し,その分グリコーゲンが多く利用されることになる。マラソンレースの直前に炭水化物を摂る人が多いようであるがこれは間違っている。グリコーゲン多く利用されるのでよほど強い人でない限り途中でグリコーゲン枯渇状態に陥って足が動かなくなる事態が生じる。筋肉のグリコーゲンは空腹になっても運動をしない限り減少しないので,あらかじめ筋肉のグリコーゲンを蓄えておいて空腹状態で走るべきである。レース直前に,あるいはレース中に糖質を摂っても走っている間は筋肉ではグリコーゲン分解の反応が起こっていてグルコースは筋肉中には取り込まれないので効果は期待できない。ただ,この時のグルコースは脳,肝臓では使われるので疲労感の回復に役立つかも知れない。ただし,サッカー,ラグビーのような間欠的に筋肉を使う運動では試合中の炭水化物補給は有効である。

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