肥満を防ぐ:脂肪にならない油は生活習慣病を引き起こす

 脂肪の蓄積が嫌われるあまり,世の中には脂肪にならない食用油なるものが売り出されている。脂肪はグリセロールに3分子の脂肪酸が結合した化合物であるが,摂取された脂肪は小腸でリパーゼによって両端の脂肪酸がはずされて2-モノアシルグリセロールと脂肪酸を生じる(図)。生じた2-モノアシルグリセロールと脂肪酸は小腸上皮細胞内に吸収され再度脂肪が合成される。このとき脂肪酸は長鎖脂肪酸であり,また2-モノアシルグリセロールの存在が必要であるが,これをうまく利用して脂肪にならない脂が開発された。

 その一つは長鎖脂肪酸でなく中鎖脂肪酸から成る油である。中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸と違って小腸上皮細胞内で脂肪に再構成されない。そのためにキロミクロンを形成せず,鎖脂肪酸と2-モノアシルグリセロールとして毛細血管を経て肝臓に運ばれる。摂食後に脂肪酸が肝臓に運ばれれば前回述べた内臓脂肪と同じ効果をもたらすことになる。脂肪酸が優先して利用されてグルコースが利用されないために血糖濃度が上昇し,生活習慣病と同じ状態に陥る。まさに内臓脂肪と同じ結果をもたらす。

 もう一つは1,3-ジアシルグリセロールである。これはリパーゼで分解されたとき2-モノアシルグリセロールを生じないのでこれも小腸上皮細胞内で脂肪に再合成されない。そのためキロミクロンを形成せず毛細血管から肝臓に運ばれて中鎖脂肪酸から成る油と同様に血糖上昇をもたらす。幸いなことにこの油は販売中止になっているので心配はいらないが,また売り出されたときには注意を要する。

 上記2つの食用油はエネルギー消費の激しい若い人には問題を起こさないかもしれないが,脂肪の蓄積が気になる中高年の人には重大な問題を引き起こしかねない。世の中,何事もあまりにもうまい話には注意しなければならない。

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