脂肪酸濃度が上昇するとグルコース消費が止まり肝臓はグルコースを産生する

 

 ヒトの体内では脂肪酸グルコースが同時に供給されると脂肪酸を優先して使用することはすでに述べてきたところである。血中の脂肪酸濃度が増加するのは空腹時であるが,このときグルコースを消費したのではたちまちのうちに低血糖に陥り脳の機能が失われてしまう。脳には脂肪酸を細胞内に輸送するタンパク質がないために脂肪酸を利用できずグルコースのみをエネルギー源とするためである。肝臓,筋肉など体内のすべての臓器は脳の言うなりに働いている下僕と思っても間違いない。肝臓は空腹時に脳の機能を維持するためにグルコースの消費を止めるだけでなく,タンパク質を分解して生じたアミノ酸からグルコースを生成して脳に供給する。

 脂肪酸の酸化分解で生じたアセチル-CoAは図Aに示すようにピルビン酸の酸化を阻害する。この阻害がないときピルビン酸はアセチル-CoAに酸化され,エネルギー源として消費される,あるいは過剰分は脂肪合成に使われるのであるが,この阻害を受けるとピルビン酸はオキサロ酢酸へと代謝されてクエン酸回路の代謝中間体量の増加をもたらす。この増加分は図Bに示すようにグルコース合成に使われる。肝臓はこのように空腹時にはグルコースを消費する反応を止めて,逆にグルコース合成をおこなう。空腹時にはピルビン酸はグルコースからではなくタンパク質の分解で生じたアミノ酸,あるいは筋肉の運動で生じた乳酸から供給される。生体は空腹時にはグルコースを消費してピルビン酸を生成する代謝系も停止する機能を有しているからである。

 なお,脳以外にグルコースしか利用しない組織は赤血球である。赤血球脂肪酸を燃やすミトコンドリアを持たないためグルコースのみをエネルギー源とする。これら以外の組織では空腹時に脂肪酸が利用される。

 脂肪酸代謝物はピルビン酸の酸化以外にもグルコース代謝の最初に段階(グルコースからグルコースのリン酸化合物を生成する反応)も阻害する。要するに血糖濃度の低下する空腹時には体内でのグルコースの利用は停止してタンパク質の分解で生じたアミノ酸からグルコース合成が進行する。

 以上述べたように空腹時に血糖濃度が低下すると生体は脳の機能を維持するためにグルコースの消費を止めてタンパク質からグルコース合成を行う。生体にとって生きるためには脳の機能を維持することが最優先されるからである。ダイエットを行おうとして過度な減食を行うと筋肉が失われ運動でエネルギー消費のできない体になってしまう。その結果脂肪を消費できなくなって逆に脂肪が蓄積しやすい体になってしまう。何事も極端なことは避けなければならない。

 

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